第164話 転生
「カーラ、ちょっとエリスに呼ばれちゃったから……」
「いってらっしゃいませ」
カーラさんに送り出されて来る久しぶりの天庭。
いつもならエリス様が隠れてしまうけれど、今は緊急事態なのか雲みたいなふかふかのソファに座っていた。
エリス様は泣き腫らしたあとのような顔をしていた。
さっきまで雨が降っていたのはそういうことか。
「どうしたの、親友?相談くらい乗るわよ」
「ぐすっ……実はさっき新しいお友達候補が、『聖女の片道切符』を手に入れたの……」
「「!?」」
ということは、新しい聖女が来るってこと!?
「通常、『聖女の片道切符』を入手したのを確認したら、だいたい一ヶ月後くらいにこちらの世界に来れるようにできるんだけど……」
「だけど?」
「彼女が切符を手にした途端、彼女が乗っていた車が衝突事故に巻き込まれて……そのまま亡くなったの……」
「えっ……」
そ、そんな……。
「エリス、もしかして、例の子?」
「いいえ、二人には話していない子よ。マコトって子……。幸いタイミング良く魂だけは生きているうちにどうにか回収はできたんだけど、もう心臓が止まってしまっていて……。私は死体には干渉できないから、こちらの世界に持ってこれなかったの……」
流石に神様でも出来ることは限られるようだ。
確かにもし死体にすら干渉できるなら、エリス様は歴代聖女が死んだ時に治していたはず。
当然といえば当然ではある。
でも、魂だけ回収っていうこともできるんだ……。
「回収した魂はどうなるんですか……?」
「早く器を探さないと、次第に記憶がなくなっていって、最後には消えてなくなってしまうわ」
「シルヴィアさんみたいな器では駄目なんですか……?」
「駄目よ。そんなことしたら、器に魂が耐えられなくなって消滅しちゃう……」
神様の作った器って、そんなに凄いんだ……。
「サクラ……こんなこと、本当はお願いしたくはないんだけど……」
「もしかして、私のお腹の子に……?」
「…………」
サクラさんがそう聞くと、エリス様は黙って頷きも否定もしなかった。
エリス様だって、本当はこんなお願いはしたくはなかったのだろう。
「……これは私のワガママだって分かってる。だから、断ってくれて構わな……」
「いいわよ」
「えっ……?」
サクラさんは、二つ返事でOKを出した。
「これでも私、エリスには数えきれないほど感謝しているのよ?たまには親友のワガママくらい、聞いてあげるわよ」
「サクラ……」
「それに、あなたの友達なら、私のお友達でもあるんだから。救えるのなら迷う必要なんてないわ」
「サ、サクラぁっ……!」
がばっと抱きつき泣きつくエリス様。
「ほらほら、泣いてないで早くしなさい!時間がないんでしょう?」
「ええ!魂に説明してくるから、ちょっと待ってて!」
魂と会話できるんだ……。
神様凄いな。
エリス様はまるで親にでも褒めてもらったかのように嬉しそうに奥へと向かった。
ということは、もしかしてこれは転生の儀を間近で見れるということだろうか?
「良かったんですか?そんな軽々しく決めて……」
「軽々しくはないつもりよ。私はもう後悔はしたくないの」
子を宿して死にかけたサクラさんだからこそ思うところがあったのだろうか。
「お待たせ!彼女の名前は一文字の霞に真実の真と書いて霞真。私の加護をつけたまま聖女として前世の記憶も残すわ。無口だけど、とってもいい子よ」
「じゃあ、お願い」
「ええ」
白い魂がゆらゆらと飛び回ると、エリス様の祷りにあわせてぴかっと光り、魂はそのままサクラさんのお腹に吸われるかのようにすっと入っていった。
……なんだか貴重な体験をしてしまった。
「記憶が残るなら、名前は真ちゃんにした方がいいのかしら?」
「マコトは新しい名前が欲しいって言ってたわ。『新しい両親のネーミングセンスに任せる』ってさ」
「……責任重大じゃない……」
子への名付けは一度きりなのだから、責任が重大なのは最初から変わらないと思うけど……。
「アレンには黙っておこうかしら?生まれてからのお楽しみにするとか……」
「流石にそれはやめてあげてください……」
それはあまりにもアレンさんが不憫だよ……。




