第163話 報告
休日。
外は雨の降りしきるなか、僕はサクラさんのもとへ訪ねていた。
「あら、いらっしゃい。珍しいわね」
「見ないうちに、随分大きくなりましたね」
「女の子にそういうのは禁句よ?」
「女の子……?」
「ちょっと、失礼ね。本当は私の方が年下なのよ?」
「それは元の世界での話でしょうに……。そういうことじゃなくて、お腹の子の方ですよ」
カーラさんはすぐに椅子を用意してくれる。
僕は「ありがとうございます」と返して座る。
「冗談よ。触ってみる?」
「いいんですかっ!?」
サクラさんのそばで服越しに触ると、ほんのりとあったかい。
どんな可愛い子が生まれてくるんだろう?
「ほうら、ソラお姉ちゃんだよ~」
「……」
「せめてお兄ちゃんにしてください」と言いたかったけど、メイドのカーラさんがいる手前、それは叶わなかった。
「名前はもう決めたんですか?」
「まだ性別がわからないからね。でもいくつか候補はあるわ。アレンも積極的に日本の名付けについての参考資料を探したり、夜に一緒に考えたりしてくれるのよ。可愛いでしょ?」
まさか名付けで惚気られるとは思ってなかったよ……。
相変わらず仲が良くて何よりだ。
「それで?私に何か用事?」
「はい。実は……」
僕はマヤ様とリッチの件をサクラさんに話すことにした。
「そう、リッチが……」
「幸か不幸かマヤ様が一人目のようでしたから、まだ公にはなっていません」
「でも、学園生が犠牲になるくらい近くまで来ていたなんて……」
「裏ボスの本拠地が近くにあるのかもしれません。本拠地について、何か知っていますか?」
「申し訳ないけど、さっぱりわからないわ。痕跡も見つからなかったし、もしかすると今までは魔王がいたせいで影を潜めていたのかも知れないわね……」
確かにそう考えると辻褄は合うけれども。
ゲームでは魔王との相関関係など記されていなかったので、本当のところはわからない。
「ひとまず、御告げと御触れをそれぞれしておく必要がありそうね。この2つは私がやるわ。普段私が動けないから、ソラちゃんには迷惑をかけてるし……」
「御告げ」は聖女の行う拡声魔法で世界中に声明を届けるもの。
「御触れ」は御触書のことで、聖女が各国に向けた公文書のようなものだ。
「そんなの、気にしないでください。むしろお腹の赤ちゃんに即死魔法がかかる方が駄目ですから、間違っても退治しようだなんて思わないでくださいよ?」
魔王と戦った時の話を聞いた限り、サクラさんは自己犠牲が過ぎる。
僕がいえた義理ではないかもしれないけど、流石に僕でも分が悪い勝負はしないからね……。
「ふふ、なんだか小姑みたいね、ソラちゃん」
どうしてサクラさんはそんなに僕を年寄り扱いしたがるの……?
「もう、年寄りのお節介でいいですから。約束ですよ……」
その時、急に頭の中から声が聞こえてくる。
<サクラ、ソラ君!そ、相談があるのっ!>
必死そうなエリス様の湿りのある声だった。




