第162話 葬送
せっかく今回は隠し通せると思ったら、これだ。
僕はいつも詰めが甘い。
さっさと「魔水晶」をアイテムボックスに仕舞うと、姿勢をただす。
「えっと、その……」
「シエラ」
「は、はいっ!」
「……ソラ様?」
「う……」
次に何を言われても謝ろう。
嘘つきの僕は叱咤されても仕方がないのだから。
「……何を目を瞑っているの?」
「えっ……」
目を開けると、相変わらず表情の変わらないマヤ様の姿があった。
「だって……今まであなたを騙していたのですよ?私は怒られても仕方ないことをしてきましたから……」
「ああ、そういうこと……」
マヤ様は呆れたかのように目を閉じると、僕の頬を両手で掬うように顔を近づけ、こう言った。
「騙す?何のことかしら?私は身に覚えがないわ」
「マ、マヤ様……」
また優しい嘘をついてくれる。
「でも、今はシエラの師匠であるソラ様に無性に感謝したいのよね……」
「うっ……」
「ソラ様、ありがとう」
「うぅ……」
「って、伝えておいて貰える?」
「い、いじわるですよぅ……」
「ふふ……」
片付けが終わり、リッチの亡骸を土に埋める。
砂のようになってしまったが、その素は猫のミーちゃんの遺骨だったものだから、簡易的でも埋葬してあげたい。
手を合わせるマヤ様に僕も合わせる。
「ミーちゃんとは二年間、野良の子だけど短いようで長い付き合いだったわ」
「……」
せめて、弔いだけはきちんとしたものにしたい。
『――命、廻り廻る焔よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
涙が地に落ちるとともに、地に描かれた魔方陣が浸透して消えていく。
『――ファイアフライ・グロウ――』
今度は、本物の魔法で。
ふわりふわりと浮かんでは消えていく蛍火。
「ありがとう、ソラ様」
「ここだけの秘密ですよ?」
「私、去年の魔術大会で優勝したのだけど」
「凄いですね……」
ソフィア王女は時たまサクラさんに見てもらっていたはず。
それに勝つなんて相当の実力者だ。
「今年の優勝候補筆頭が言っても説得力がないわよ」
「だから出たくないんですってば……」
「それは皆悲しむわ」
まあソフィア王女にお願いされたから出るけどさ……。
「別に燃え尽きたとかではなく、私は将来の目標がなかったの。ただ周りから与えられるだけでよかったし、皆褒めてくれるから。そうしているうちに私は自分がやりたいことや興味があることが見つからないままこんな年まで来てしまったわ」
「マヤ様……」
それは僕もそうだ。
向こうでは親から強制的にやらされていたことだけで、僕にはそれしかなかった。
もし聖女なんてものにならなければ、将来はどうなっていたかわからない。
「でも今、少し興味が出てきたことがあるわ」
「凄いことじゃないですか!」
僕も未だに将来どうしたいか考えられていない。
その秘訣があるなら教わりたいと思った。
「私、シエラに興味が湧いてきた」
「……へっ?」
すごく情けない声が出てしまった。
「将来のことはまだわからないけれど、少し聖女院に興味が出てきたわ」
「あ、それならちょうどいい考えがあります」
「えっ?」
「ただまだ形にできるか分からないので、魔術大会が終わったらまたお話ししましょう」




