第161話 分裂
リッチは分裂したてのようだ。
「このように、呪いの対象から魔力を奪うとリッチは増えていきます」
二体のリッチは己の身体の駆動を確かめるかのように関節を動かしている。
「マヤ様、後ろにしがみついて、絶対に離れないでください。私から離れたら死ぬと思ってください」
「わ、わかったわ……」
まるで僕を抱き枕かのように抱き締めると、ふわりとした感触に包まれる。
意識しないというのは無理だけど、今は十八番芸をしている場合ではない。
サクラさんの時と同じだ。
人一人の命がかかっている。
「カカカカカ……」
「カカカカカ……」
二体のリッチはまるで鏡のように同時に両手を掲げる。
「「キュィィイイイ!!!」」
初見殺しの即死咆哮を両手のリフレクトバリアで弾き返す。
それぞれで放つ咆哮は混ざり会うと波長がずれてしまう可能性があるので、リフレクトバリアをリッチの上半身を球体のように覆うことで確実に弾き返せるようにしている。
これは相手が三体以上ではできなかったから、正直助かった。
「カカカ……」
「カカカカ……」
ただ、弾き返したところでリッチに即死攻撃は効かない。
こっちは死ぬリスクがあるのに、ちょっと理不尽だよね……。
だけどこれで暫く即死攻撃は使えないはず。
「マヤ様、後で直しますのでご勘弁を……ディバインレーザー!」
両手で交互に最大出力のディバインレーザーを放つ。
ディバインレーザーはマヤ様のお家もろとも突き破る。
一定ダメージを与えると仰け反るから、練度の高い魔法を交互に打てばすぐに仰け反って動く隙を与えない。
いわばハメ殺しというやつだ。
5発ほど当てると、両方のリッチが砂と化して消えていた。
砂の中に埋もれていた2つの「魔水晶」を目にやる。
「……凄い……」
「……倒しました。多分魔法が使えるようになっているはずです」
マヤ様が僕に抱きつくのをやめて、障壁を張る。
よかった。
呪いが解けているということは、生き残りはいないということだ。
流石に人一人の命を背負うのは僕なんかには荷が重すぎる……。
少し解放された気分になったが、辺りは散らかるどころか家の原型すら留めていない……。
「あ……ごめんなさい!す、すぐ直しますからっ!」
全力でリカバーと唱えると、家と部屋にあったモノがもとに戻る。
「ありがとう」
だがモノは直せるが、散らかった部屋はそのままだ。
「すぐ片付けますねっ!」
「手伝うわ」
「いえ、私のせいですから……っ!?」
そうして手に取った衣服というか布地の何かを僕は直視し、固まってしまった。
「ご、ごめんなさい。やっぱり手伝っていただけますか……?」
「何かあったの?」
「いえ、他人の下着をさわるのはちょっと……」
「……?シエラって潔癖症なのね」
いえ、そうじゃないんです……。
片付けが終わり、リッチの亡骸から「魔水晶」を手に取る。
ギルドでも御用達の大きな水晶だ。
今ギルドで使っているのは歴代聖女が渡したものなんだろうか?
「はい。ひとつは差し上げます」
「私はなにもしていないもの。受け取れないわ……」
「……ではギルドにでも売ればいいと思いますよ」
そう言って手に持ったうちの一つを渡そうとするが、マヤ様の焦点は僕にも水晶にも合っていない。
視線の先を慎重に辿っていくと、とんでもないものが見えてしまっていた。
名前:奏天 ランク:ES
種族:人種族 性別:女
ジョブ:聖女 LV.100/100
体力:997/999 魔力:649/999
攻撃:999
防御:999
知力:999
魔防:999
器用:999
俊敏:999
スキル
アイテムボックス、光属性魔法[極]、無属性魔法[極]
加護
女神エリスの加護
「あっ……」




