閑話44 好い人
【ケイリー視点】
「ええっ!?お姉ちゃん死にかけたのっ!?」
相変わらず高音で良く響く声だ。
「ああ。そこを樹下殿と大聖女様の弟子達に助けていただいたのだ」
「そ、そんにゃことににゃってたなんて……」
伝書で王城に伝えて数日後、ようやく私とモニカは再開した。
「でも、私達と同じじゃにゃい?」
「同じ?」
「な」が言えずに「にゃ」になってしまっているのも幼い頃から変わらない。
愛らしい妹だ。
「私達もちょうど最近大聖女様に助けてもらったんだー」
「何だって!?」
さらっととんでもないことを言うモニカ。
「ソラ様に、お会いしたのか!?」
「うん、生首だった!」
「……生首?」
……とんでもなく不遜な発言に聞こえたが、多分違うのだろう。
長年この妹の姉をしていると、段々慣れてくる。
身振り手振りと拙い言葉で何回か説明をされたところによると、どうやら聖獣様の魔法で姿を消すことができるらしい。
「……驚いた。本当に消えて生首になっていらしたのか……」
「だからそうだって言ってるのに……」
大分言葉は足りないが、モニカの言っていることが正しいなんて……。
大聖女様は「普通」という枠組みでは収まりきらないということか。
「それより、その人は?」
「ああ、失礼した。拙者は樹下と申す」
「噂の樹下さん!お姉ちゃんを助けてくれてありがとう!」
「いや、拙者は拾って送り届けただけだ……。実際に救ったのは大聖女様の弟子達だ」
「ふーん、そっかぁ……でも、ありがとね!」
モニカは私を覗き込むと、突拍子もなくこう呟いた。
「お姉ちゃん、もしかして惚れた……?」
「なっ!?」
「だってお姉ちゃんだし……」
相変わらず説明にすらなっていないが、こういうところにだけは変に勘が良いのだから困ったものだ。
「こらこら、妹殿。拙者達は単に志を共にしている同士。そういう間柄ではない」
「「……」」
肩を組んでくる妹は小声でダル絡みをし始める。
「奥さん、こいつぁ強敵でっせ……」
「奇遇だな、生まれて初めて妹と意見が合った」
「それはそれでひどい……!」
モニカと別れて宿に戻る。
「もう良いのか?」
「ああ。無事が確認できればそれでいい。済まないな、付き合わせてしまって……」
「……何、大したことじゃ……」
そこで宿の前に立っている色鮮やかな服を着た女性が立っていることに気付く。
女性はこちらに気付くと、手を振ってきた。
むっ!?
また女難の気が……。
「おお、夏樹殿!」
「お久しぶりです、樹下さん」
「知り合いか?」
「ああ。仕事仲間の夏樹殿だ」
東方の守護神といえば、王家の護衛をしていることで有名だ。
その仕事仲間ということは、東国の王家の関係者だということだ。
「こちらは、Aランク冒険者弓使いのケイリー殿だ」
「樹家侍女の夏樹と申します。以後お見知りおきを」
「あ、ああ……」
握手をすると見せかけて、こちらに小声で呟いてきた。
「そんなに睨み付けなくても大丈夫ですよ。私は樹下さんのイイヒトではありませんから」
「っ!?」
「ふふ、樹下さんも、隅に置けませんね……」
「もしや、拙者に用か?」
「ええ。召集です」
……召集?
まさか、王家からか?
「そうか、もうそんな時期か……。ああ、ちょうど良いからケイリー殿も一緒に来るといい」
「ど、どういうことだ?我々はハインリヒ国へ行くのではなかったのか?」
「ああ、そういうことですか。ちょうど私達も樹家の護衛で聖国へ行くのですよ。もうすぐ五国会議の時期ですからね」




