第159話 辞退
「ど、どういうことですか!?」
出場を辞退する?
ど、どうして……?
「…………」
そこで初めてマヤ様は言うのを憚るような表情を見せた。
「……マヤ様、すみません。来賓席へ……」
客席の一部には、王族や聖女などが見るための防音の来賓室があり、中からは窓ガラスになっており練習の様子が見える。
僕は電気を探して点けると、マヤ様を中に案内する。
「どうぞ」
中にはソファのような心地よい椅子が舞台の方を向いて置いてあり、そこに腰かける。
「どうして、辞退することに?」
「夏休み明けてから久しぶりに魔法を使ったら、魔法が使えなくなったのよ」
「魔法が、使えなくなった……?」
そんなスランプみたいなことがあるの……?
「そうなった原因というか、何か心当たりはありますか?」
「分からないわ。分からないから治しようがないのよ。気持ちが落ち込んでいるわけでもないし……」
それじゃあスランプかどうかも分からないな……。
「親からも先生からも期待されて、出場してみたらこれよ……。馬鹿みたいでしょう?」
なんというか、自棄になっている。
「少し失礼します」
アイテム袋から取り出すような素振りでアイテムボックスから『患グラス』を取り出し装着すると、思わず言葉を失ってしまった。
「……っ!?」
「どうせ講師なんてどちらを選んだって変わらない」と言っていたのはそういうことか……。
「…………」
『封魔の禁呪』と表示された鑑定結果に、僕は言葉をなくしていた。
「サングラスなんてして、どうかしたの?」
「これは病気や状態異常を鑑定する『患グラス』というアイテムです」
「……私は病気なの?」
「……マヤ様は封魔の禁呪というものをご存知でしょうか?」
「申し訳ないけど、そんな物騒な単語は聞いたこともないわ……」
「まず、これは封魔の禁呪という呪いの一種です。呪いを受けてしまった人は、呪いをかけた魔物が息絶えるまでずっと魔法が使えなくなります」
「魔物……?相手は魔物なの?」
「はい。封魔の禁呪は人間で使用できる者はいないとされていますから。魔物では、不死王リッチのみが使うことを許されています」
「っ!?」
不死王リッチ。
リッチは裏ボスが創造し、使役していると言われている魔物だ。
逆に言えば、リッチが生きているということは、裏ボスが生きているということに他ならない。
この世界ではまだ、裏ボスが生きている……。
まだどこにいるか全く分からないけど、その証明がなされた今、僕は初めてこの世界で自分の身の危険を覚えた。
「でも、リッチになんて出会った覚えはないわ……」
「では質問を変えます。最近死んでいたと思っていた人やしばらく見ていない動物が突然帰ってきたりはしませんでしたか?」
「……」
考え込むと、暫くしてピンとくるものがあったようだ。
「そういえば、最近近所の猫のミーちゃんをまた見るようになった……」
「リッチは死体を隠れ蓑にする習性があり、その死体と最も縁が深い者のところに現れて、呪いをかけると言われています」
「じゃあ、私はリッチを倒さない限り、魔法が使えないということ……?」
僕はこくりと頷く。
「マヤ様、訓練が終わったら、そのミーちゃんのところへ案内していただけますか?」




