第1話 聖女
朱い長髪のインテリ男性が跪き、騎士や貴族……?――のように身なりの整った人達が皆顔を上げることなく傅く様を見渡す。
ようやくこれが自分に向けられたものだと気付いた僕は驚き、せっかく起き上がったのにまたへたりこんでしまった。
「あ、あの……! だ、誰かと間違えていませんか……?」
「とんでもございません! あなた様はカナデ・ソラ様でお間違いありませんか?」
「は、はい。 そうですけど……。 ぼ、僕……!」
「突然のことでお困りでしょう! 僭越ながら私が、まずはこの国と聖女さまについてご説明致します。さあ、別室へと参りましょう」
「あ、ちょっと……!」
インテリさんに連れられ廊下を歩いているとすれ違う人誰しもが僕の顔を見る前に傅く。
その奇妙な現実に僕は周りのみんなの生命を吸い取って立てなくしてるんじゃないかなどと、そんな不謹慎なことを考えていた。
そんなことを考えていないと、皆身なりの整った服装、しかもお城のようなこの空間で一人だけパジャマ姿で歩いているこの恥ずかしすぎる状況のことを考えてしまうから仕方がない。
「ソラ様、どうぞこちらへ」
客間らしき部屋へ通されると、僕と同い年くらいのメイドさんがにっこりと佇んでいた。
給仕中だから当たり前だけど、ここに来て初めて傅かれなかったので、僕は少し安堵した。
「長い話になりますので、どうぞお席に」
そう促され、どう見てもアウェーなパジャマ姿で座ることに。
「改めまして、私はルークと申します。 この聖女院で主に内政をまとめております」
にこっと笑う営業スマイルに僕は萎縮するだけだった。
ルークさんはこの世界のことについて、要約して話してくれる。
「このアモルトエリスという世界では、聖女様は唯一神エリス様と会話できるとお伺いしております。 そして異世界から転移なされた聖女様はエリス様から『万物を浄化する祝福』というお力を得るのです。 聖女様は神託を民にお伝えしたり、最高権力者として国々に干渉したりするお力がございます」
「……さ、最高……権力者!?」
「っ!?」
メイドさんから紅茶のような飲み物を置くタイミングで驚いてしまったので、メイドさんもビックリして思わず手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい……」
「い、いえ……!」
素直に謝るとメイドさんから取り繕うようにスマイルが返ってくる。
しかし、さっきから目をそらす度に自分のパジャマ服がちらつく。穴があったら入りたい気分だ。
「は、配慮が足りず申し訳ございませんでした! ……最高権力者とはいいましても、配下となる各国々には国を治めている国王様もいらっしゃいますし、私のような内政官もおります。 年一回、各国々へご視察なさるようお願いはしておりますが、それ以上のことは聖女様がお望みでなければ基本的に自由でございます」
大分言葉を選んでくるなぁ……そんな大層な人間でもないのに。
「でも、各国々の最終決定権があるってことですよね……?」
そんな役割、こんな一般の学生が持っていて良いものじゃないと思う……。
「そうなります。 ですが、聖女様でしたら女神エリス様とご相談できますし、今の場合ですと先代聖女さまのサクラ様もまだお若くご存命ですから。 きっとご相談にのっていただけると思いますよ」
そうは言われても……。
「どちらの方もお会いしたことはないですし……」
「おや?おかしいですね……? 確かサクラ様の時は、転生時にエリス様にお会いしたと伺いましたが……」
「それに……」
そんなことよりもっと気にかかっていたことがある。
「先程から気になっていたのですが。 その、『セイジョサマ』というのは……?」
「聖女様とは、万物を浄化する力をお持ちであり、女神エリス様の友人と言われている女性のことです。 ソラ様、あなた様も聖女様のお一人でございます」
ついに聞きたくなかった答えにたどり着いてしまった。
しかし、聖「女」である必要があるなら、聖女様は僕ではないのではないか?
最高権力者というパワーワードの塊から逃げたくなり、すがりつくように最後の希望へと託すことにした。
「あの……僕……。 そのー……お、男なんですけど……」
「…………は?」
「…………えっ?」
その瞬間、ルークさんも、メイドさんも、そこにいた全員が凍ったように固まってしまった。




