第147話 謝辞
帰ってきて数日、僕は出遅れた休暇を過ごしていた。
エルーちゃんにも散々付き合わせちゃったし、たまには休んでほしいと伝えたところ、
「ソラ様の方が働きすぎです!夏休みなのですから、いい加減休んでください!」
と怒られてしまった。
毎日は慌ただしかったけど、働いているという実感がとくになかったので、休めと言われてもな……。
いつもより早めに目覚める。
「おはようございます、シエラ様」
今日はメイドのシスカさんが給仕をしてくれた。
シスカさんはいつも聖女院の僕の部屋の清掃をしてくれているメイドのお姉さんだ。
シスカさんもまた、僕が男だと伝えている数少ない人だ。
時たまワープ陣で掃除中に驚かせてしまっていたのは申し訳なく思っている。
「ふあぁ……おはようございます、シスカさん。エルーちゃんはお休み中ですか?」
「はい。私は休日の女ですから」
「いや、それだと僕が女性をとっかえひっかえしているみたいじゃないですか……」
「……違うのですか?」
「普段僕がどう思われているのかがわかった気がします……」
そもそも僕は、誰ともそういう関係じゃないってば……。
「寮母のフローリア様より言伝がございます」
「フローリアさんから?」
「はい。フローリア様とミア様が2日外泊してくるとのことで、昨日の夜から出掛けていらっしゃいます。ですので本日寮にいらっしゃるのはシエラ様のみです」
「……そうですか」
「伝言の続きですが、たまにはソラ様も羽を伸ばしてくださいとのことです」
フローリアさんからも休めと御達しが来てしまった……。
とはいえ、寮でシスカさんと二人では、とくにやりたいこともないし……。
結局聖女院にいってきますと告げてワープ陣で移動する。
移動してから、そういえば用事を思い出して歩き出す。
「ソラ様、ごきげんよう」
「貴女は確か……クリスさん?」
確か、ルークさんの補佐をしている一人だったかな?
「お名前、覚えていただけて光栄です。本日はいかがなさいましたか?」
「メイドの皆さんに少し用があったのですが、今はお忙しいでしょうか?」
「いえ。今でしたら、皆あそこにいるとおもいます。案内いたします」
「助かります」
「そういえば、この間リリエラ嬢にお会いしました。ソラ様の信頼されたお方とお聞きしましたが」
「素敵な人でしょう?私の親友なんです」
「ええ」
そんな話をしつつ、僕はまだ入ったことのない部屋に入った。
……ん?
僕がまだ入ったことのない部屋……?
僕が確認する間もなくがちゃりとクリスさんが扉を開けると、そこは見渡す限りの肌色。
「ちょっ!?」
ここ、メイドの皆さんの更衣室っ!?
「あ、大聖女様!ごきげんよう!」
「きゃあ!ソラ様よ!」
きゃあきゃあと下着姿ではしゃぐメイドの皆さん。
聖女院だからなのかわからないけど、みんな可憐な人達なので本当に目のやり場に困る……。
いや、そんなことを言っている場合じゃない。
「お、お邪魔しまし……」
「さ、中へどうぞ!」
「ちょ、ちょっと!?」
背中をメイドさん達に押されて、中に入れられてしまった。
無慈悲にも何も知らないクリスさんが扉をぱたりと閉めた。
「ソラ様、誰かをお探しですか?」
前に出たのはカーラさん。
確かサクラさんの専属メイドさんだ。
下着姿で逆にはっきりするように、出るところは出ていて括れるところは括れている。
白銀の髪が靡くのが思わず美しいと思ってしまうほどの美貌……って、そんなこと言っている場合じゃない。
「エルーシアをお探しですか?でしたらこちらに」
「えっ……」
「ソラ様……」
奥から他のメイドさん達に押されて前に出てくるエルーちゃん。
エルーちゃんの下着姿はとても可愛らし……ってそうじゃない。
「き、今日は休みじゃ……」
「は、はい……ですからこれからお出かけしようかと……」
「そ、そうだったんだ……ごめんね、色々と……」
「いえ……あの、私に御用ですか?」
……僕もエルーちゃんも、メイドさんに押されて退路を断たれてしまっている。
お互いに顔が真っ赤だ。
「いや、メイドの皆さんに用事があったんですが……」
……こうなったら言うことを言って去ることにしよう。
「私達に、ですか?」
「はい。フィストリア王家に潜入しているとき、メイド服に着替えて侍女の仕事を少しだけしたのですが……」
「ソラ様の、メイド服……!?」
「見たかったなぁ……」
「当時の映像魔法の復元したものがこちらに……」
「なんでそんなものがあるのっ!?」
いつの間にそんなものを撮っていたの……?
というかこの写真、なんか不自然だ。
……どうして部屋から撮った写真じゃなくて、窓の外から撮った写真なの……?
「きゃああ!可愛いい!」
「とてもお似合いです、ソラ様!」
「世界にはこんなに可愛らしいものがあったなんて……」
「いや、あなた達の方が可愛いでしょ……」
そう言うと、みんなしてじっとこちらを見つめてくる。
「……もしかして、口説かれていらっしゃいます?」
「今夜の女を所望ですか!?」
「ち、ちがいますっ!そういう話がしたい訳じゃなくて、その時に皆さんが普段やられているお仕事の大変さを知ったんです。ですから、いつもありがとうございますって言いたくなったんです……」
「……」
急に静かになると、エルーちゃんが真っ赤な顔のまま、前に出て僕の手を取った。
「ソラ様、私達は皆聖女様に救われたことを感謝しております。私達の方こそ、いつも私達をお救いいただきありがとうございます。そして、これからも聖女様方に尽くすことこそ、私達の本望です」
「エルーちゃん……」
そうして俯いているエルーちゃんをよく見てみると、俯いているのではなく、一点をまじまじと見つめていることに気付く。
視線の先は、どうみても僕の股間……ってぇ!?
「じ、じゃあ!私はそれが伝えたかっただけですのでこれで!失礼しましたぁっ!!!」
勢いよくメイドさんをはねのけて扉までたどり着くとその勢いのままバタンと閉めた。
まだざわざわしている部屋の中の音を聴きながら、僕は聖女院に来たことへの後悔を覚えていた。
「最低だよ、私……」
勝手に見ておきながら、勝手に我慢が効かなくなっていたなんて……。
でも聖女院のメイドさん達は、それほどに魅力的な人ばかりなんだもん……。
火照った顔と元気な分身は、何回か清潔を行ってもなお治まろうとしなかった。




