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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第19章 脚下照顧
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第145話 回生

 迷宮に潜っていないソフィア王女には組み手はまだ早い。

 それにソフィア王女は修行をつけるだけで弟子ではないからね。


『――紅きを照らす回生の聖獣よ、今ひと度(われ)に力を貸し与えたまえ――』


 空中に円を描くと魔法陣が出来上がり、それが灯火となりやがて燃え上がる。


『――顕現せよ、聖獣フェネクス――』


 紅からオレンジ、黄色、白とまるで「キャンバスに描いたような炎」のような色鮮やかな羽をもち、その額には赤い水晶を携えた、不死鳥の名をもつ聖獣が現れる。


「ネクス、ソフィア王女に加護を」

「加護を、くださるのですか?」

「はい。ソフィア王女、結構痛いですから覚悟を見せてください」

「は、はいっ!」


 キィーと甲高い声をあげると、水晶の赤が更に濃い血の色に変わり、不死鳥の体は一瞬にして高温を放ち燃え盛る。

 燃え盛る炎の体がやがて青い高温の炎へと変わる頃、ネクスはソフィア王女の手の平に吸い込まれていく。


「熱っ!」


 ソフィア王女はその熱さに思わず飛び退き、立っていられなくなる。

 手の平に炎の形の焼印がつけられると、焼印から再びネクスが飛び出してくる。


「ハイヒール!大丈夫ですか?」

「え、ええ。なんとか……」

「加護の火力や操作に慣れるために今日は魔法のコントロールを養ってください。上級魔法の種類や使い方などは直接ネクスに教わった方がいいと思います。この森で炎属性を放つのは危ないですから、王城の訓練場に戻っていただいて構いませんよ」

「かしこまりました」

「また明日迎えにあがりますね」


 ソフィア王女と別れてエルーちゃんと向き合う。


「さ、私達もやりましょうか。あっちはもう始めているみたいですし」


「小童!すぐ障壁に頼ろうとするでない!」

「そ、そんなすぐにはっ!無理ですよぉっ~!?あふんっ!」


 ……追っかけ回して障壁を叩き割るだけになっているけど、修行になってるのかな、あれ……。


「エルーちゃんも魔法と障壁禁止ね」

「そ、そんな……」

「近接では魔法の方が遅いんだよ。それにヴァイスや魔王なんかの攻撃は障壁を貫通してくる。だから最低限の近接戦闘は身に付けるべきだし、近接戦闘を学ぶことで無属性の強化魔法を常時かける練習にもなるからね」

「想定敵が魔王なのはおかしいんですよ……」

「じゃ、いくよ」


 ふっと力を抜き、パンチを繰り出す。


「ひぃっ!」


 ボコッと音がして後ろの木が抉れる。

 思わず壁ドンみたいな構図になってしまったけど、ときめき要素は欠片もない。


「ほら、避けたりうまく防がないと痛いことになるよ?」


 そう言って木にリカバーと唱え、治す。


「こ、こんなのを受けたら……」

「大丈夫。怪我してもすぐ治すから」

「そういうことではないのですが……」

「口ではなく手を」


 


「ほっ!はっ!」

「はっ!はいっ!」

「ほいさ!」


 数時間後、足払いにも動じずにぴょんと跳び跳ねる余裕さえ出てきた。

 やはりエルーちゃんは飲み込みが早い。

 いや、飲み込みが早いだけじゃない。

 頭の中の考えを寸分違わず動作にできている。

 これはなかなかできることではない。


 僕はゲームで何百回と繰り返し同じことをしてやっと得た動きだ。

 というか普通はそうやって体に動きを染み付けていくのだけど、エルーちゃんは考えながら正確に出力するので10回未満で形にできてしまう。

 これは天賦の才能だ。

 加護の差を除けば、僕より強くなれる気がする。


「さ、次は属性強化だよ」


 僕はさっきよりも素早く重い一撃をエルーちゃんに繰り出す。


「痛っ、くない……?」

「ヒールを纏った強化魔法だから、食らっても痛いのは一瞬だよ。だから結構本気めで行くよ。痛いのを回避したければ、ティスの加護の乗った水属性強化を使って、自分をどう強化するかを考えて」

「は、はいっ!」





「はあ、はあ……し、しんどいです……」

「大分動きが良くなってきたかな」


 向こうはどうなっているかな?


「ほれ、ほれっ!」

「あひぃ!ふほぉ!」


 ……なんというか、大道芸……?

 脚力強化ですんでのところで躱す技術が上がっている気がする。

 本当は脚力だけでなく、エルーちゃんがやったみたいに肉体硬化したり、属性強化で防いだりしてほしかったんだけどね。

 まあ時間は有限だし、また時間があるときにみっちり鍛えることにしよう。


「なかなかやるではないか」

「どう?合格?」

「まあ及第点じゃな。じゃがこれからソラがみっちり鍛えるのじゃろう?」

「そのつもりだよ」

「ならよし。ステラと云うたか?背中を向け」

「は、はい!」


 ヴァイスはステラさんの首もとに手を当てると、ヴァイスの手が神々しく光輝く。


 光がステラさんの首もとを焼き、太陽の形を象る。


「じゃあ、宿に戻ろっか。またね、ヴァイス!」

「たまには顔を見せい」

「ありがとうございましたっ!」

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