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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第18章 独学孤陋
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閑話40 年かさ

(みね)(しのぶ)視点】

「で、どうだったの?」


 サクラ様のもとに戻ってきた私は事後報告をしていた。


「申し訳ございません。途中で見失ってしまいました」


 横にいた母がパシンと私の頬を叩こうとしたが、サクラ様が張った障壁で防がれていた。


「全く、少しは妊婦を労って頂戴。少なくとも私なら、子供の言い分を聞くまでは叩かないわよ」

「サクラ様、他家の教育方針には口を出さないで貰えますか?(しのぶ)、これは信頼を得るために遂行すべき重要任務だったはずよ。それなのにあなたときたら……!」


 叱責は受ける覚悟だ。


「その芝居、いつまで続けるつもり?私はまだ仔細を聞いてないというのに、家族同士の揉め事を聞かされるのを待てと?怒鳴るのはこの子にも悪影響だわ。杏、これ以上私を怒らせるつもりなのかしら……?」


 普段温厚なサクラ様のとても低い声に、少しちびってしまいそうになった。

 ……最近股下が緩い気がするのは、きっとソラ様のせいに違いない。


「……申し訳ありません」

「で、どうだったの、忍ちゃん?」


 私を庇ってくれたのだろうか。

 聖女様をお守りする立場だというのに、まだまだ聖女様に頼ってしまっている自分の未熟さが情けない。


「はい。ソラ様は冒険者ギルドで情報を聞いた後、その夜に聖獣獏様を召喚され、透明になられました。その後は推測になりますが、王城へ向かったものと思います」

「はぁ、やっぱりそうか……」


 ソファに座っていたサクラ様はふぅと息をつく。


「いい、忍ちゃん、杏?獏で透明になったソラちゃんは、私でも見つけられないの。多分この世で見つけられるとしたら、エリスくらいだわ」

「……」

「獏を再召喚して奪い返せば一体化(インテグレーション)を解けるだろうけど、それも無理。あの子、私の倍くらい魔力あるみたいだし……」


 やはり、あれを追うのは無理だったのだ。


「そんな相手を追うなんてまず無理よ。それに、だれも気付かないんだから追わなくても無事だと分かるわよ……」

「はい。ですのでご帰還をお待ちしておりました」

「賢い子ね」


 サクラ様が優しく撫でてくださる。


「ソラ様がご帰還なされた頃には、王家のリタ・フィストリアが牢に入れられたと報せがありました」

「……自分が恥ずかしくなるわね。私が葵さんの代わりを勤め始めてから五年、うまくやってきたつもりになっていたのかもしれないわ……」

「そんなことは……」


 サクラ様は、普段はおちゃらけていらっしゃるが、その根はとても優しい。


「忍、実はリタ・フィストリアが監禁していた王城の使用人の捕虜がソラ様によって聖女院に匿われたのよ」

「っ!?」

「その数200。この5年間で溜まっていったのだと思うわ……。これを暴けなかったのだから、情けないとしか言いようがないのよ……」


 私は、それを聞いて不謹慎にも、少し笑顔になってしまっていた。


「それは仕方ないと思います。サクラ様に否があったのではなく、ソラ様が素晴らしいお方なだけですから」


 私は自信満々にそう答えた。


「忍、あなたなんてことを……」

「ふ、ふふふっ、それもそうね。あーあ、やっぱり年上には敵わないのかなぁ……」


 お子様を宿した人とは思えない、無邪気な子供のような台詞を呟くサクラ様。


「サクラ様の方が年上では?」

「ここだけの秘密だけど、もとの世界ではソラちゃんは私の一つ上なのよ?」

「そうなのですか?」

「ええ。私はこっちに来るのが早かったからね。私は凛ちゃんと同い年……いや、これをあなた達に言ってもしょうがないわね……」


 『凛ちゃん』というのは向こうの世界のご友人だろうか?

 それとも、まさかソラ様の向こうの世界の恋人……?




「リタは牢屋で自殺したそうよ」


 サクラ様の今日一番低い声が飛んできた。

 私は少し漏らしてしまった。


「フィストリア王家はこの情報をソラちゃんに伝えるべきか私に(ゆだ)ねた……」

「……」

「ソラちゃんを哀しませないように、隠し通しなさい。そして、次の芽がないかリタの周辺を洗いざらい調査して頂戴。これは、最優先事項よ」

「「はっ!」」


「杞憂で済むといいのだけれど……」


 そう言ってサクラ様はお腹の我が子をそっと撫でた。

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