第141話 試行
「そういうわけですので、私達はしばらく各地を回ります」
「「「各地を、回る……?」」」
不穏な単語に全員がハモるが、わざわざ行かない人に説明はしなくてもいいかな。
「エレノア様にはワープ陣を渡していますから、多分任意のタイミングで帰ってくると思います。なので先にフローリアさんとミア様は寮にお返ししますね」
元々エレノア様の捜索が目的だったんだし、もう二人を付き合わせる必要はない。
「ありがとう」
「エルーちゃんとステラさんは、ギルドに疫病の依頼の報告をお願いできますか?」
「ソラ様は一緒に行かれないのですか?」
「いや、私は今行くと樹下さんと鉢合わせそうだから……」
次に会ったら絶対逃がしてくれなさそうなんだよな……。
「ぷっ……」
あ、エルーちゃんが吹き出した。
「もう、笑うならいっそ盛大に笑って……」
「ちょっと、いくら一番弟子の水の賢者様とはいえ失礼ですよっ!去り際の台詞、とってもかっこよかったじゃないですかっ!?」
「……何かあったの?」
「なんでもないです……」
「それはですねっ!」
僕が誤魔化すも、ステラさんがまるで英雄譚のように語り始めた――
英雄譚が終わった頃には、みんなぷるぷると震えて声もなく笑っていた。
「お、乙女の……秘密……っ……ふふっ」
「もう死にたい……」
「みなさん!なんで笑うんですかっ!」
僕の膝に座って撫でさせてくれるステラさんは、やっぱり優しい。
「ステラさんだけは、大人の悪意に染まらずにいつまでも純真無垢でいてくださいね?」
「あ、あなたよりも年上ですよっ!!!!」
ミア様とフローリアさんを送り届けた後、エルーちゃん達と合流する。
結果として、樹下さんはいなかったらしい。
ワープスクロールで戻ってきちゃったから、樹下さん達より先に戻ってきてしまったのかも。
エルーちゃん達を見つけてもついてきそうではあったから、会わないのならそれに越したことはない。
問題を先送りにしているだけのような気もするけど……。
まずはエルーちゃんと初めて周回したハインリヒの迷宮に向かう。
フレイマーオークキングが『魔力のグミ』を落とす迷宮だ。
「ちょっと実験してもいいですか?」
「いやな予感しかしないのですが……」
エルーちゃんは完全に僕を疑ってかかるようになってしまった……。
修行の内容は至極端的で、ボスを倒すだけなんだけど、今回は以前のように周回はせず、ワープ陣をボス部屋に置くことにした。
フレイマーオークキングの迷宮を回っているとき、ボス部屋でフレイマーオークキングと一緒に出てくるフレイムオーク10体のドロップアイテムである『炎の魔石』を無視していたところ、二週目でそれが残っていたことに気づいた。
これはこの世界に来てからの気付きだ。
入り口からボス部屋の位置が同じであるという既知の事実から、僕は「ボス部屋は毎回生成されているわけではなく、ボス部屋に至るまでの道とボス部屋のモンスターだけが入る度に生成されているのではないか」という仮説をたてた。
「じゃあ移動するよ」
仮説は見事に正しく、ボス部屋に置いたワープ陣は消えてなくならず、迷宮の外のワープ陣からボス部屋に直接来てもボスは出現した。
ただこのやり方には少し懸念点問題があった。
ワープ陣は僕達だけでなく、魔物も移動できてしまう。
魔除けのクラフトアイテムで近寄れなくは出来るが、迷宮のボスともなるとそれも効かないため、迷宮のボスがワープ陣を使って移動できてしまう。
厄介なのはワープ陣の移動先は移動した本人の意思に依存することだ。
僕はこれまでワープ陣を置きまくっていたから、もしボスがワープ陣を踏んでしまったら、それらのどこにボスが現れるか分からないのだ。
これは非常にリスクが高いので、今までは試すのをためらっていた。
「これでもっと早く周回ができるね!」
「ふえぇ……」
ここからは、楽しい愉しい周回のお時間だ。




