第15話 変装
試験の朝、何故かサクラさんが部屋に来ていた。
「ソラちゃん、お待たせ!あの件、なんとかなったわよ!」
あの件って、何の事?
よく見るとサクラさんの後ろにルークさんもいた。
「はいコレ。今日から学生としてのあなたの名前はシエラ・シュライヒよ!」
そう言って紙を渡される。
なにこれ?……戸籍……証明書!?
「この間学園に来たとき、聖女としてちやほやされるのが嫌みたいだったから。だから聖女院から要請して戸籍を用意してもらったの」
「それって戸籍詐称じゃ……」
「この世界は聖女が法だから。使うときは使わないとネ!」
こんなに悪そうなサクラさんの笑顔初めて見た……。もしかして、相談する相手間違えたかな……。
「でもただの平民だと、いじめの……可能性はあるかもしれないと思って。だからシュライヒ侯爵家に養子として扱うようにお願いしたのよ」
そのお願いは絶対お願いじゃないよね……強制って言うんじゃないかな……。
でも、僕が前世で学校でいじめられていたのも知って侯爵家にしてくれたってことだよね。その点には感謝しないといけない。
「ありがとうございます」
「だから貴方はこれからルークの妹、という設定になるわ!覚えておいてね」
「えっ!?」
ルークさん、侯爵だったの!?
「聖女さまにご挨拶する時には、政治利用を防ぐために基本的に家名を名乗らないのです。また私のように家名を持っていた者は聖女院に所属する際、家名を捨てる必要がございます。ソラ様……シエラ様は対外的には私の妹ということになりますが、私自身はもうシュライヒ侯爵家の人間ではありませんので」
つまり、出家みたいなものか……。
てかルークさんの妹て……。
「あとその黒髪だと一発でソラちゃんだってバレちゃうから、このウィッグを被って」
そう言って金髪のウィッグを渡される。
えっ……これ付けて学園行くの!?
「それは飛ばされる際に魔力をウィッグに込めれば離れなくなる優れものよ」
ま、まあもう試験当日だし逃げ道はないか……。
諦めてウィッグを付けるとジャストフィットした。サイズぴったりなのが怖いんだけど……。
「ソ……シエラ様、お似合いです!」
既に女装してるし、変装するくらい誤差だと思っておこう……。なんかもう感覚が麻痺している気がするよ……。
「ほら、もうすぐ試験の時間だから。シエラちゃんもエルーちゃんも、頑張ってね!」
サクラさんはエルーちゃんが受験することを知っていたんだ……。本当になんも知らなかった情けないご主人様だなぁ……。
ルークさんから受験票を受け取り出発の準備をする。
「ありがとうございます」
「いって参ります」
学園に付くと受験生が沢山いた。
エルーちゃんは少しこわばっている。
「ソ……シエラ様、緊張してきました……」
「大丈夫。あれだけ対策したし、エルーちゃんならきっとうまく行く。私が保証する。お互いに頑張りましょう」
「……はい!」
試験は日本語、英語、地理、歴史、数学、科学、クラフト学、魔物学、魔法学、戦闘実技の計10教科、合計1000点満点になる。
戦闘実技以外は全てペーパーテストだ。
科学は問題を見る限り、物理生物化学のまとめ学問のようだ。
この国の地理や歴史、クラフト学、魔物学、魔法学は前世で知り得ない教科だが、ゲームでよく見た地図にストーリーなど、ゲームと同じ内容しか聞かれないから僕にとってはむしろ得意教科になる。
ズルいという気持ちはあるが、今は問題が解ける楽しみが勝っていた。
どの教科も解くのにそんなに時間はかからないから、記入ミスや凡ミス、あとは肝心の名前ミスを試験時間終了まで確認するようにしていた。
シエラ・シュライヒって書くの、未だに他人の答案用紙作ってるみたいで慣れないなぁ……。
戦闘実技は体育館のような場所で行われる。外に集まって、名前を呼び出された順に体育館に入って先生と模擬戦を行う。
「シエラ様!」
そとに集まって待っていると、エルーちゃんがいた。
「エルーちゃん、ペーパーテストはどうだった?」
「はい!手応えアリです!シエラ様のお陰です!本当にありがとうございます」
「それは何より。そういえば、戦闘実技の試験の点数って、どうやって決まるの?」
「ええと、先生に勝ったら無条件で100点、負けた場合は模擬戦を行った先生が点数を付けるのだそうです」
むむむ……あんまり派手にやると、聖女ってバレちゃうかな……?
変な心配をしていると、校内放送が流れてくる。
「1334番、エルーシアさん、中にどうぞ」
「は、はい!」
「大丈夫、特訓の成果を見せてあげましょう!」
「はい、いってきます!」
エルーちゃんが行ってしまい手持ち無沙汰になる。
すると一つのグループの会話が耳に入ってきた。
「今年の学園長の気まぐれは誰が呼ばれるのかしら?」
「気まぐれ?ああ、学園長先生が有望そうな受験生一人を呼んで直々に実技するやつ?」
「呼ばれるのは光栄だろうけど、緊張するし……絶対勝てるわけないじゃん……普通にやるより点数が下がるわよ……」
「でもそれを危惧した学園長先生が、呼んだ生徒には実技の点数とは別に、無条件でプラス10点くださるようになったらしいわ」
なんだその気まぐれ……不穏すぎる。
しかし、嫌な予感というのは往々にして当たるものなのだ。
「536番、シエラ・シュライヒさん、至急多目的ホールまでお越しください」