第140話 弟子
ハープちゃんに乗って『患グラス』で辺りをくまなく見回し終え、村長の家へと戻る。
村長から話を聞くと、流行り病だと気づいたときには遅く、もうすでにみな病に伏しており、それ以上の情報をギルドに伝えることができなかったらしい。
「大聖女様、も、ももももも!!」
「ステラさん、落ち着いて」
慌てているステラさんも癒しだが、流石にずっと見ているような趣味はない。
「も、申し訳ありませんでしたぁ……!!」
ステラさんはその小さい体で大きく平伏する。
「あまり気にしていませんから……」
「ソラ様、あまり気安く許すと味を占めることもありますよ」
「そ、そうですよっ!」
これじゃあどっちが怒られてるのか分からないな……。
「でも、ステラさんと行かなければこの依頼を受けていなかったかもしれません。救えなかった命が救えたんですから、今は喜びましょう?」
「ソラ様ぁ……」
村長も優しく手を差しのべる。
「そうさね。我々を救ってくれたのはお嬢ちゃんでもあるんだよ。ソラ様を連れてきてくれて、本当に、ほんとうにありがとう」
「ふえぇ……どうして皆さん、そんなに優しいんですかぁ……!」
その後、宴会に誘われたのだが、このままいくとお風呂や一緒に寝るなんてことになりかねないので断った。
「今から山頂の小屋に帰るには流石に間に合いませんよっ!?」
「いや、直接フィストリアに帰ればいいんですよ」
「……?」
可愛らしく首をかしげるステラさん。
僕は『ワープスクロール』を取り出して床に敷き、二人の手を取りスクロールに手をかざす。
フィストリアの宿に置いておいたスクロールから姿を表す。
「きゃあっ!?」
「フローリアさん、ミア様、ただいま……」
「ソラ様はいつも急だよね……。おかえりなさい」
「おかえりなさい。その子、まさかソラ様が誘拐……」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ……例のステラさんですよ」
「この子が……?」
「可愛~いい!!何歳?」
しゃいて……。
撫でくりまわすミア様に、ステラさんはちょっとむすっとしていた。
「いや、小人族ですから年齢はミア様より上ですよ」
「あ、ごめんなさい……」
「いえ、気にしませんからっ……」
それはどうみても気にしている顔だよ……。
「ん……?この口調、どこかで……」
「ああ、ステラさんはマリエッタ先生の妹さんです」
「え、えええええぇぇぇぇ!?」
「まさか、マリちゃん先生の妹さんが、ソラ様の偽弟子だったなんて……」
「偶然にしてもすごいわね……」
偽弟子と言われたステラさんは、思い詰めた顔でうつむいていた。
「私、偽弟子なんて嘘ついてその名声を利用して、光魔法で大聖女様のように多くの人を救いたいなんて言っておいて、町の誰一人として助えなかったんですよっ……。疫病は聖女様しか治せないのに、馬鹿みたいですよねっ……」
弱々しい声と涙は、初めての挫折をじわりじわりと味わっているように感じた。
「先に一つ訂正をしておくと、疫病は上級光魔法のキュアが使えれば治すことができます」
「じゃあ、単に私の実力不足だったんですねっ……」
「ちょっとソラ様、何も追い討ちをかけることないんじゃ……」
「話はまだ終わってませんよ」
僕は食い気味に反論を遮ると、ぺたんと地べたに座るステラさんの前に行き、しゃがんだ。
「ステラさん、本当の弟子になってみませんか?」
「……へ?」
失敗をした人は強くなれる。
僕はその応援がしたかった。
「一週間で立派な二番弟子にしてみせます。ただ、今回は一切手を抜きません」
「まさか、あれで手を抜いていたのですか……?」
そりゃあ、エルーちゃん達を傷つけたくはないからね……。
「や、やりますっ!やらせてくださいっ!」
既に決意の意思は固く、揺るぎないものになっていた。




