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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第18章 独学孤陋
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第139話 挫折

「また、行きと同じように行くのですか?」

「せっかく雪道だから、ソリをするのはどうかな?」

「この急斜面をっ!?」

「……魔物はどうするのですか?」

「私が操縦してエルーちゃんを掴んでいるから、エルーちゃんは魔法で障害になる魔物を吹き飛ばしてくれる?」


 今の僕は刀術士のシエラなので、僕が軽々しく魔法を使うわけにもいかない。


「かしこまりました」


 エルーちゃんに氷でソリを作って貰い、僕が後ろに跨がる。

 エルーちゃんが中央、ステラさんが前だ。


 僕がエルーちゃんの腰をぎゅっと掴むと、エルーちゃんが少しうつむいた。


「エルーちゃん、しっかり前向いて。いくよ!」


 足を蹴って下山を開始する。


「いやあああああっ!?」


 僕がソリをコントロールして、エルーちゃんは魔物にアイスショットをぶつけて起動をそらす。

 ステラさんは必死にしがみついている。


 前を見ると、崖になっていた。


「わ、崖だ」

「シエラ様、そんな呑気に……」

「エルーちゃん、氷で道作れる?」

「……やってみます」

「いやああふんっ!?」


 崖から飛び出した先にエルーちゃんが氷の斜面を作り、そこに僕が乗るように操縦する。


 エルーちゃんは僕が支えているから、両手の杖を交互に使って道を途切れさせないようにしてくれた。




 降りること数十分。

 結構手足のしびれが来てきた頃にはもう村に到着していた。


「はあ、はあ……今度は本気で死ぬかとおもいましたぁ……」

「結構スピード出て楽しかったですね」

「私もあの地獄の特訓のせいで慣れてしまいました……。あれに比べたらまだマシですね……」

「や、やっぱこのお二人、狂ってますよぅ……」




「誰もいませんね……」


 村には活気がないというより、人が誰一人として出歩いていなかった。


「きっと流行り病で伏しているんですよっ!急ぎましょうっ!」

「あ、待ってください!」


 正義感が強いのはいいけど、ちょっと後先を考えずに突っ走るのは見ていて怖い。


「シエラ様、後を追いましょう」




 ひとつの民家の中に入ると横たわる人々の奥、必死に回復魔法を唱えるステラさんの姿があった。


「どうしてっ!?治まってっ!!」

「無理だよ、嬢ちゃん……。ここへ来た他の魔法使いの方でも無理だったんだ……」

「ごほっ、ごほっ……きっと上位の光魔法使いでなければ、対処できないのだろう」

「そ、そんなっ……」


 横たわる村人には斑点ができていた。

 嫌な予感がしていたが、これは疫病だ。


 疫病は聖女でなくとも光魔法使いであれば治すことはできる。

 だが、上級光魔法『セラピー』以上を使えないと治すことはできない。


「私は、治すって決めたんですっ!何か方法があるはずですっ……!諦めたくはっ……」


 目尻に涙が伝うステラさん。

 必死にやろうとして冷静さを欠いている。


 うまく行かなくて挫折を味わったのは初めてなのだろうか。

 挫折ばかりだった僕としてはちょっと羨ましいと思ってしまった。


「疫病なら仕方ありませんよ、ここは任せてください」

「何を……」


 早くも手に斑点ができ始めているステラさんの頭を優しく撫でると、僕は金髪ウィッグをはずして大杖をふるう。


 ひとまず村全体を包み込むように。

 いや、もうちょっと広がっているかもしれないからもっと広げないと――




『――邪を(はら)い、二豎(にじゅ)を浄化せし一滴(ひとしずく)よ、今ひと度(われ)に力を貸し与えたまえ――』




 すでにエルーちゃんにも回っているようで、僕に祈りをしていた。

 魔法陣は水面のようにゆらゆらと揺れ、それが治まると魔法陣に書かれた文字から、天に上るように真っ直ぐな白い光を放つ。




『――すべてを浄化せよ、ハイエリア・セラピー!――』




 僕を中心に光輝き、祈りを込めたエルーちゃんの黒い斑点が剥がれるように落ちて行く。


 やがて風化したように剥がれた斑点が消えてなくなると、最上級魔法は光の治まりとともになくなっていった。


「……大、聖女……様……?」

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