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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第18章 独学孤陋
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第138話 小屋

 フラメス山の麓で馬車を降りる。


「さ、二人とも。これを着てください」


 防寒着の『炎孤の衣』をアイテム袋から取り出して二人に渡し、僕自身も着る。


「あったかい……」

「どうやって行くんですか?」


 雪に囲まれたフラメス山には、水属性耐性の高い雪の魔物が多くいる。


「エルーちゃんはステラさんを抱えて移動することに専念して。移動方法は任せるよ」

「シエラ様は?」

「今回は私が全部やるから、ついていくことに専念!」

「は、はい」


 僕は『霊刀鬼丸』を取り出して「霊気解放」と唱えると、僕の魔力が鬼丸に吸われ、白い煙のようなもやが鬼丸から出てきた。


『――霊刀壱の舞、三日月――』


 抜刀とともに飛ばされた白い波動は三日月の形をして伸びていき、三日月が道中の雪や木、そして魔物のホワイトウルフやスノーマジシャンもすべて薙ぎ祓っていく。


 エバ聖の刀術はどの刀でも共通で使える「型」技と、刀固有の技である「舞」技がある。


 「型」や「舞」を使わなくてもステータス依存の力を振るうことはできるが、それだけでは刀術の真価は発揮できない。


 中でも刀固有の「舞」は強力な技が多く、遠距離もこなせる「舞」をもつ鬼丸はゲームでもとても重宝していた。




 僕が先導して三日月で道を作り、エルーちゃんはその後に続く。


 エルーちゃんは初めはステラさんを抱えて走ろうとしていたが、全力の脚力では追いつけないと悟り、魔法を使うことにしたようだ。

 氷の壁で背中をがっちり固定した後、ウォーター・ショットを背中に打ち、氷の壁ごと強い水の推進力で斜め上方向に押し出す。


「いやあああっ!?」


 俊敏のステータスがカンストしている僕のスピードに追いつくために工夫するエルーちゃんはもう水の賢者として十分に立派だと思う。




 弟子の成長を感じながら頂上付近の小屋まで来る。


「はぁ、はぁ……これがSランクの移動方法……頭おかしいですよぉ……」

「わ、私もシエラ様に毒されてしまったのでしょうか……?」


 毒されたってひどいな……。

 僕は魔王か何か?


「ステラさんもお疲れでしょうし、少しこの小屋で休みましょう」

「お手数お掛けしますぅ……」




 小屋の中に入ると、先客がいた。


「ん?貴殿らは……」


 北の国に似つかわしくないお侍さんと、僕達より少し年上の獣人の女性がいた。


 いや、遠目から見るとお侍さんが覆い被さっているように見えた。


「も、もしかしてお邪魔でしたかねっ……!?」

「なっ!?拙者は看病していただけだ!そのような誤解は……」

「看病ですか?」


 女性のもとに駆けつけると、足を獣に引っ掛かれた痕があった。

 ホワイトウルフにやられたのかな?

 いや、ホワイトウルフの爪でできたような傷痕ではないから、上位種のアイスウルフかもしれないな……。


「拙者はここで武者修行をしていたのだが、昨日この小屋の近くでこの女性が倒れていたのを見つけた。すぐに北の国に戻りたかったが、この危険な魔物の住むフラメスの山を女性を抱えながら降りるのは無謀だと判断して、女性が回復して降りられるくらいになるのを待っていたんだ」


 ステラさんは話を聞くよりも早く女性のもとに寄ると、回復魔法を放った。


「ハイヒール!」


 中級魔法でも十二分に効くだろう。


「助かりもうした。貴殿はもしや、噂の大聖女様の弟子殿か?」

「はいっ!Cランクのステラと申しますっ!」

「これは失礼した。拙者はSランクの樹下(きのした)と申す。樹木(じゅもく)(じゅ)に下と書く方の樹下だ」


 東国ならではなのだろうが、もとの世界の名前に近くて少しびっくりする。


「もしかして、『守護神』と呼ばれている樹下様ですかっ!?」

「有名なのですか?」

「私でも知っています。東の国の王家、樹家を守る守護神と呼ばれる侍がいらっしゃると……」

「いやぁ、流石に恥ずかしい……。それより、そちらの二人の御仁も強者に見受けられるが……」


 うっ……そんなのわかるのか……。


「私はシエラ、Sランクです」

「従者のエルーシア、Sランクです」

「……驚いた。こんなところにSランクが二人も……。聞き覚えのない名前からして、もしかしてどちらかは最近Sランクを取られた『水の賢者』か?」

「っ!?どうしてそれを……」

「ええっ!?エルーシアさんがあの最短でSランクに達成したという『水の賢者』様だったのですかっ!?」

「強者は話題になりやすいのでな。だが同じ刀術士のSランクなら拙者が知らない筈がないのだが……シエラ殿、貴殿は何者だ?」


 あ、これはまずい……!?


 僕はアイテム袋から『炎孤の衣』二着と食料をいくつか取り出して机に置いた。


「私達は逆方向を目指していますからこれで。食料と防寒着を置いておきますから、その女性が目を覚ましたらこれを着て下山してください」

「しかし、こんな貴重な炎孤の衣を貰うわけには……」

「徳を積んだ褒美とでも思ってください。気が引けるようならフィストリア支部のギルドに預けてください」

「かたじけない。せめて最後に、貴殿の二つ名を……」


 僕は樹下さんの口元をつんと指差す。


「それは、乙女の秘密です」


 踵を返して小屋を出ると、後に続いて二人も出てくる。




「はぁ……もういっそ殺して……」


 とっさに思い付いたこととはいえ、もうちょっとマシな回答はなかったの……?


「多くは語らない正義の味方っぽくて、かっこよかったじゃないですかぁ」


 そうじゃない、そうじゃないんだステラさん……。

 もうあの人には絶対会えないよ……。


「……気を取り直して、下山といきましょう」

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