閑話37 説得力
【橘涼花視点】
今日は父上が孤児院へ行く日だ。
「たまには涼花も来るかい?」
父上は孤児院"カエデ"の出だ。
時々お世話になった孤児院長に会うためにこうして赴く時がある。
これまでも何度か誘われたが、父上の水入らずを邪魔をしたくないからと断っていた。
まあもうひとつの理由もあるのだが……
気が変わったとかではないが、その日はすることもなかったので父上に付いていくことにした。
「ブルーム、久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「クレア先生、久しぶり。私はこの通り元気さ。クレア先生も元気だったかい?」
「ええ。ソラ様のおかげで最近は腰の疲れもとれてとても好調なんですよ」
力こぶを作ってみせるクレア先生。
「クレア先生もお年なんだから、あまりはしゃがないで下さいよ。これ、いくつかのお花の種です」
「あらありがとう」
「ブルームさまだ!」
子供達も駆け寄ってくる。
「君たちも元気だったかい?」
「げんき!」
「ソラさまのおかげ!」
「そうか。君たちが元気なのが一番嬉しいよ」
戯れる父上をよそに、視線はこちらに寄せられる。
「あら、そちらは……もしかして涼花様?」
「初めまして、クレア先生。ブルームの娘、橘涼花です。私にとってはお祖母様なのですから、様など不要ですよ」
「うふふ、そうね。私にもまた孫ができたようで嬉しいわ、涼花ちゃん」
私には祖母がいなかった――いや、正確には聖女様のもといた世界にいたらしいが、会ったことはない――から、その言葉は嬉しかった。
「りょうかさまだ!」
「かっこいい!」
「りょうかさま、あくしゅして!」
「い、いいとも。さ、おいで」
可愛らしい子供達の姿に、思わずまとめて抱き締めてしまった。
「ふふふ……」
「涼花様、だらしない顔」
「っ!?」
いけない。
この顔をしてしまうから行くのを控えていたのに……。
「すまない、どうも私は可愛いものに目がなくてね……って、君は確か、一年生の……」
まさか、学園生に見られてしまうとは。
シエラ君に続いて、この類いでは運がない。
「ソーニャ。ここの孤児院で育った」
「そうか。ならば私達は家族だな」
こくりと頷くソーニャ君。
最低限しか喋らないのはきっと、そういうタイプなのだろう。
「涼花様、ソラ様のこと、好き?」
「っ!?」
核心を突く質問に、思わずびっくりしてしまった。
「どうして……そう思ったんだい?」
「さっき、可愛いものに目がないって言ってた」
あ、ああ……そういうことか。
「そうだね。ソラ様は私の憧れだよ」
「なりたい?」
「いや。決してなれないけど憧れることもあるだろう?」
ソラ様は、私がなることは敵わない、理想の女性像だ。
「なら、会いたい?」
この孤児院はソラ様のお祖母様である初代聖女様のおられた場所だから、時々ソラ様がおいでになられるそうだ。
「会いたくはあるが、ソラ様にご無理をさせたまで会いたいわけではないさ」
「……そう」
「紹介でもしてくれるつもりだったのかい?」
「ソラ様、友達」
それはなんとも羨ましい。
「大丈夫。涼花様も、すぐなれる」
「そうなれたらと思うよ」
「シエラと、友達?」
「ああ。仲は良いな」
「なら、大丈夫」
理論もなくどこからその自信が来るのかは分からなかったが、やけにその言葉には説得力を感じた。




