第135話 男女
「偽弟子、ですか?」
「ええ。確かアレクシアさんに聞いた時は、『大聖女の弟子と名乗る者がいる』と……」
「ああ、それなら多分ステラちゃんのことですね」
「ああ、あの子か……」
オフィーリアさんとルシアさんが二人とも知っている人みたいだ。
「本当に弟子だと思っていたのですが、違うのですか?」
「そもそも会ったこともありませんよ……」
「ソラ様の名を騙って人々を騙すような人など、許せません……!」
「本当の弟子としては気になる?」
「はい。悪いことをしているなら止めなければなりません」
制裁とかじゃなくて止める、だから本当に優しい子だ。
だからこそ僕はエルーちゃんを弟子にしようとしたんだけどね。
「ステラさん、どんな人なんですか?」
「……一応冒険者ギルド職員としましては、冒険者の情報は秘匿に当たりますから、いくら聖女様とはいえ……」
あっ……。
「ご命令とあらばお伝えいたしますが……」
流石に聖女権限を使うような事じゃない。
「だ、大丈夫ですから!すみません、常識知らずで……」
「私も差し出がましいことを申し訳ございません」
「いえ、むしろ助かりましたから……」
ゲームとはいえ僕の愛用していた冒険者ギルドなのだから、そのルールに反することはしたくない。
「……少なくとも、悪いことを考えるような人ではありませんよ」
「オフィ!」
オフィーリアさんは敢えてそう言ってくれた。
「このくらいは言ってもいいでしょう?経験則ですが、お互いに負の感情を抱かせておくと無益な争いを生みますよ。それにステラさんも誤解されたままでいられたくはないでしょうから」
こういうことを考えられるのも、ギルドマスターとしてやってきた経験に基づくものだろう。
欲求不満なこと以外はまともな人のようだ。
やはりルシアさんだけでも、オフィーリアさんだけでも片寄ったものになってしまうから、二人ともギルドマスターになったのはよかったのだと思う。
こうしてお互いに意見を交わしたりして、今後も高めあっていってほしい。
「そういえば、ステラさんが受けたがっていた依頼で、護衛が必要だったのでいくのを断念していたものがありますよ」
オフィーリアさんがそう言うと、ルシアさんもピンと来たようで、依頼書を探してくれた。
「確か、これですね。ここからフラメス山を越えた村で流行り病が出たらしく、治してくれる魔法使いを依頼しておりますが、フラメス山には凶暴な魔物が多く、Bランク以上の冒険者がいないと越えられない任務となっていたんです」
ということは、ステラさんはCランク以下の実力ということか。
「大聖女様か賢者様がご同行なされれば、条件は満たせますから。どうでしょう?」
「あの、賢者様はさすがに恥ずかしいのでやめてください……」
「ではエルーシア様で」
「……はい……」
あまり納得のいっていないエルーちゃん。
僕なんて男なのに「大聖女様」なんだから、恥ずかしいどころじゃないんだけどな……。
同行はエルーちゃんといくことにして、その日は宿に帰ることに。
シャワーを浴びて寝巻きに着替えると、エルーちゃんは給仕を、フローリアさんとミア様は話をしていた。
「私も行きたかったなぁ……」
「仕方ないでしょう?私はミアちゃんに無理してほしくはないわ……」
「ね、ソラ様……付いていっちゃ駄目……?」
「……そんな子犬みたいな目をしても駄目です。行きたかったのなら、ルシアさんと一緒に修行すればよかったじゃないですか」
「う、それは流石に……。エルーちゃんから前よりも地獄のようだったって言われてたし……」
……ステラさんが僕の名を騙って騙すと言ってたけど、今のエルーちゃんの方が余程僕の悪い噂を流している気がするよ……。
「フラメス山となると、流石に僕でもミア様を守りながら行くのは難しくなりますから……」
「……」
……あれ?
「ソ、ソラ様!」
「あっ……!?」
遅れて気づいた。
今僕、無意識だった……。
「ソラ様。もう口調、我慢しなくて良いよ?」
「ミア様……実は」
「男の子、なんでしょう……?」
「なっ……!?」
ど、どうしてそれを……!?
「ごめんね、ずっと隠してて。ソラ様がフローリアさんに打ち明けていたときに聞いちゃったんだ……」
あの時、ミア様が聞いていた……?
「でも、少なくとも私は気持ち悪いとも思っていないから。大丈夫だよ」
僕の考えていることが分かったかのようで、びっくりした。
「これからもよろしくね、ソラ様」
僕のほしい言葉をくれるミア様。
その優しさはとても暖かかった。
「……うっ……ぐすっ……」
「な、泣く程っ!?」
我ながら情けない。
「だって、ミア様に嫌われたらと思ったら……」
よしよしと撫でてくれる。
「全く、そんなんで嫌いになるわけないでしょう?」
「はい、ごめんなさい……」
「ね、ソラ様……必ずどんな子か教えてね?」
「はい、約束です」
泣き腫らした僕はミア様と指切りをしたのだった。




