第134話 誤想
すぐさまオフィーリアさんのもとへ行き、回復させる。
「な、なんですか!?私を笑いに来たのですか……?」
「そんなわけないでしょう?良い戦いでしたよ」
「さて、Sランクは認めてもらうわよ」
ルシアさんは地べたに座るオフィーリアさんの前に立つ。
「私なんかが認めなくても、ここには証人がたくさんいるでしょう?どうぞ私を、煮るなり焼くなりしてくださいな」
「ん?……どういうことです?」
なんか自棄になっているようだけど、別に煮も焼きもしないよ……?
「だって……もとはといえば、私がギルマスなのが気にくわなくてこの勝負が始まったのでしょう?ですから、私からギルドマスターを剥奪して、ルーに赴任させようとしたのでしょう?」
「あ、そうでした……」
ルシアさんも納得したような顔をしているけど……。
「え?そんなことしませんよ?」
「「え……?」」
ん?
なんか行き違っている?
「ルシアさんをSランクにさせたかったのは、ここのギルドマスターが初対面の相手に断りもなく魅了魔法を放つ人だったからです。オフィーリアさんが暴走しても、誰も止められないのは組織としてよろしくありません。ですから、同じかそれ以上の実力で、止める役が必要だと思ったんです。まあ確かに、なんでこんな人がギルドマスターをやっているのかと最初は思いましたけどね……」
強い者が上に立つというのはそういうものだ。
僕は向こうの世界で散々味わっている。
それ以外にオフィーリアさんを焦らせようという意図もあったけど、それはわざわざ口にする必要はないだろう。
「で、ですが最初に『このことはアレクシア女王に報告する』と……」
「そ、そうですよ!ですから、アレクシア陛下によってオフィのギルドマスターを剥奪するものだと……」
ルシアさんも誤解していたようだ。
いや、思い返すと僕の言葉足らずだったようだ。
「違います!いつまた魅了魔法を他人に使うか分からないのですよ?本当は私が見張っておきたいですが、流石にずっとフィストリアにいるわけにはいきません。ですから私の代わりに見張るための第三の組織が必要でしょう?その役目は丁度国を見直すことに力を入れ始めた王家が適任でしょう」
「危なっかしいと思っているのならば、わざわざそんな私をギルドマスターにしておくより、首を切ってルーを新しいギルドマスターにすれば良いじゃありませんか」
その言い分はもっともらしいけど、僕にとってはその考えは許せなかった。
「誰にでも間違いはあります。私なんて、生まれてから今まで……間違いだらけの人間です。ですから、一度間違ったくらいで足を切るつもりはありません。いや、そんなこと私が許しません」
「ソラ様……」
シェリーとセフィーを引き取った時にもこの言葉を言った気がするが、これが僕の信念だ。
「一度間違っても、やり直そうと考えているならまたやり直せると私は信じています。もちろん今までの周りからの信頼は失ってしまうので、また信頼してもらうには人一倍頑張る必要がありますけどね」
魅了魔法を使ったのがあれで初めてなのなら、見たのは僕たちだけだから、わざわざ広めることをしなければいいだけだ。
僕はもう向こうの世界でもやり直せるかわからないくらいにマイナスだったし、こちらでも人を騙しに騙して正直神様に好かれているのが不思議なくらいのマイナスだ。
これらに比べれば、一度くらいの魅了魔法はかわいいものだろう。
「そうだ、折角なら二人ともSランクになったんですから、ギルドマスターを二人でやるのはどうでしょうか?」
「ええっ!?」
「そんなこと、前例がありませんよ……」
「前例がないのなら、前例になればいいんですよ!」
実力が近く切磋琢磨できる恋人相手なのだから、ギルドマスターとしての仕事もお互いに高め合えば良いと思う。
「早速、アレクシアさんに聞いてきますね。駄目そうならルークさんにでも聞いてみます」
「そんな軽々しく言わないで下さいよ……」
「じゃ、行ってきます」
アレクシアさんに聞いたところ、あっさり了承されてしまった。
すっきりした気持ちで足取り軽く戻ってきたが、なんか忘れているような……。
「あっ……偽弟子の件、すっかり忘れてた!?」




