第133話 切磋
「この二日間、地獄のようでした……」
「私、付いていかなくてよかった……」
エルーちゃんとミア様と一緒に冒険者ギルドへ向かう。
「あれは到底人がやるものではありませんよ……」
せめて人扱いはしてほしい。
「ソラ様、お越しいただきありがとうございます」
ルシアさんが挨拶をすると、オフィーリアさんがそっぽを向いた。
「オフィ、無礼ですよ!」
「だって、ソラ様のせいでルーったら二日とも帰ってきたらすぐ寝ちゃうんですよ?」
「ハードスケジュールだったんだから、仕方ないじゃない」
確かに元々二人は喧嘩していたわけではないからね……。
ギルド奥の訓練場に移動すると、ギルド職員が幾人かが見守っていた。
痴話喧嘩かつギルマスの試合ということで、職員の間でも話題にでもなっていたのかな?
「だ、大聖女様!?どうしてこんなところに……」
「もしかして……あの痴話喧嘩が起こったのは、ソラ様の美貌で弟子にとったルシア様が誑かされたと思って嫉妬したギルマスの恨みからなの……!?」
「きっとそうだわ、そうに違いない!」
……当事者のいる前で堂々と嘘を広めないでよ。
僕はがやを無視してルシアさんに確認した。
「どうするか、決めましたか?」
「ソラ様の名誉を傷つけるわけにはいきませんから」
「私のことはどうでもいいです。ルシアさんがどうしたいか、ですよ」
「それも含めて、です。私はオフィと同じSランクになりたいです」
僕は無言でこくりと頷くと送り出した。
二人は円の中に入り対峙する。
「さて、どれくらい強くなったのかしら?」
分かりやすく魅了魔法を放つオフィーリアさん。
杖ではなくステッキ使いということは、魔法と物理の両刀のようだ。
最終盤に僕が使っていた、極めれば効率戦術となる戦術でもある。
まあ僕の場合は両ステッキだから、ステッキ1本分の効率の違いがあるけどね……。
「ふふ、もうオフィのそれは効かないわよ!」
「なっ!?ルーのくせに、私より上だというの!?」
魅了魔法が効かないということは、オフィーリアさんよりルシアさんのレベルが上ということだ。
再び魅了魔法をルシアさんにかけさせたければ、怠けずに自分もレベルを上げるしかない。
「一瞬で片付けるわよ!影縛り!」
無数の影が縄のようになり、ルシアさんに向かって伸びていく。
「蜃気楼の霧」
辺りに霧が現れるとルシアさんがぼやけ、そこに影の縄が縛り付けようとするも、次の瞬間にぼやけたルシアさんが跡形もなく霧散した。
「っ!?風の上級魔法!?以前は使えもしなかったのに……」
蜃気楼でルシアさんの場所が分からなくなり、オフィーリアさんは辺りを見回す。
「どうせ私を攻撃するのだから、私の回りの霧を消せば良いのよ!」
オフィーリアさんは闇の侵攻で自分の回りを覆い尽くして霧を消すことに成功する。
「さあ、これでお得意の霧も……」
「大嵐の大災害!」
離れたところで上級魔法を準備していたルシアさんがそのまま広範囲を球体状に包み込む突風の渦で攻撃し、辺りの土埃を巻き込んで球体の中を再び見えなくする。
ルシアさんはその間に距離を詰め、懐に入り込むことに成功する。
突風の渦が収まったタイミングで、オフィーリアさんの腹を目掛けて『突風』を放った。
「すごい!これなら飛ばして円の場外に……」
ミア様がそう言うが、そうはならなかった。
「甘く見てもらっては困るわ……」
なんと『影縛り』を自分の足につけ、場外に吹き飛ばないように固定したのだ。
「近距離なら、私の方が速いわよ!」
魔法から近接に切り替えたオフィーリアさんは身体強化をしてステッキをルシアさんの胴に向けてブンと横に振った。
魔法しか練習していないから、近接で戦えば普通なら勝てない。
横に振ったステッキをルシアさんは胴に直に受けた。
「なっ!?」
直撃するとはおもっておらず少し心配したオフィーリアさんだったが、ルシアさんは構わずそのままステッキをがっしり脇で挟む。
「生憎物理は効かないのよ!」
あれだけ防御のグミを食べたんだ。
今のルシアさんはゴーレムより硬い。
エルーちゃんに至ってはもはや要塞だ。
ルシアさんはここぞというタイミングで杖をもう一本出し、ゼロ距離でオフィーリアさんの懐に両杖で魔法を放った。
「影ごと吹き飛べ!双突風!!」
影は風圧に耐えきれず千切れ、オフィーリアさんは吹き飛ばされ、場外の壁に叩きつけられる。
「かはっ……」
「や、やった……!!」
「本当に、勝ってしまわれました……」
こうして僕たちはルシアさんがSランクになった瞬間を三人で見届けたのだった。




