第132話 最短
「先程二倍の早さで周回すると仰いましたが……」
「どうせなら、最短を目指したいですよね」
「……ソラ様の御心のままに」
諦めてくれエルーちゃん。
僕はあなた達を育てるのをやめない。
再び迷宮に入って少しすると、僕は杖を取り出す。
『――妖精の森を照らす壮麗なる聖獣よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
「きゃっ!?」
魔法陣を迷宮の壁に展開すると、魔法陣から突風が吹き荒れる。
『――顕現せよ、聖獣プシュケー――』
現れたのは、全長3、4メートルはあるかという怪蝶。
その羽はオオルリアゲハのような紋様で、黒をベースに、内側に透き通った白色となっている。
両羽を背中から見ると自然にできたハートのような形で白色が見え、とても美しい。
「綺麗……」
「風の聖獣プシュケー様をお出しになられたということは、もしや……加護をお与えに?」
「いや、流石にプシーの加護を与えちゃうとフェアじゃなくなっちゃうから……」
まあルシアさんにだけ修行をつけておいて今さらフェアとか言える立場でもないけど、威力倍は流石に誰が見てもずるいだろう。
それに今後仲直りして切磋琢磨していくことも考えると、やっぱり喧嘩のもとになる加護なんて与えないほうがいい。
「プシー、『グリーンモード』!」
プシーの羽のハートの形をした部分と額の水晶が透き通ったエメラルドに変わる。
「さ、二人とも乗ってください」
「の、乗るんですか?」
「まさか、聖獣様が移動手段ですか……?」
僕はこくりと頷くと、続けざまに詠唱を始める。
『――現し世の万物を覆滅せし神よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
いつもよりも大きく魔力を削り、呪文を唱える。
『――ホーリー・デリート!――』
魔法陣から放たれる白い光線は、ほぼ真下の地面に突き刺さる。
ホーリー・デリートの光線は音も立てずにすべてを消滅させてしまい、光線の跡が残るように真っ直ぐ下に延びた穴が出来上がった。
僕もプシーに乗る。
「さ、行きましょう。ちゃんと捕まっててくださいね。プシー、お願い!」
プシーは風魔法を使って自分の体を加速させる。
僕が自由落下するより早いのだから、文字通り最速だ。
本当ならハープちゃんが速度的には一番高いんだけど、流石にあの巨躯は迷宮に入らないからね……。
「キャアアア!?」
……最早事件性のある悲鳴だ。
風の勢いで皆手を離しそうだったため、シャイニング・バインドで皆とプシーの胴体を縛って固定させ、風圧というか衝撃波がすごいことになるので斜めに障壁を張っておいた。
「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思いました……」
穴を抜けた先は、ボス部屋だった。
「ビンゴ!」
実は入り口とボス部屋の位置はどの迷宮も変わらないので、突っ切る手段をもっていれば最短で着くことができる。
「さ、あとは二人ともお願いね」
「ひ、ひえぇ!?」
二周目のアイアンゴーレムを二人で倒すと、非難轟々である。
「ソ、ソラ様!いくらなんでもこれはひどいです!」
エルーちゃんが怒ったことで、ルシアさんも怒って良いんだと悟り、口を開く。
「わ、私たちも心が通っているんです!恐怖を感じるんです!」
余程怖かったようだ。
「大丈夫、あと数回やれば慣れますよ」
「「これを繰り返すのですかっ!?」」
ハモるくらい仲良しになっているとはね。
「でもこれで時間の許す限り回れば成長も早くなるでしょう?さ、口を動かすより手を動かして下さい。次に行きますよ」
共通の敵がオフィーリアさんから僕に変わったのを眺めながら、それでも僕は二人に強くなってもらいたいからと心を鬼にして周回を始めたのだった。




