第130話 作戦
翌朝、エルーちゃんとギルドに向かうとルシアさんが待っていた。
ミア様はエルーちゃんから特訓の内容を聞いてドン引きした後、同行を辞退した。
「本日はよろしくお願いします!」
偽弟子のことも気になるけど、こっちの方が気がかりだったので仕方ない。
オフィーリアさんは徹底的に協力したくないらしく、ギルドで何かを受けようかと思ったけど追い返されてしまった。
「オフィがあんなに拗ねているのは初めてで、少し心配です……。これでもし本当に勝ってしまったら、これまでの彼女の積み重ねを私は否定してしまうことになりかねませんから」
聖女から教えるという行為は、要するにこの世界の人達にチートを授けるようなもんだ。
誰彼構わずに教えるわけにもいかない。
「二日後に勝負としましたけれど、別にルシアさんは負けたければ負けてもいいんですよ」
「えっ!?」
「もちろん勝つための手段は教えていきますし、ギリギリ勝てるくらいの実力にはもっていくつもりですけど、最終的に勝つかどうかはルシアさんが決めていいですよ」
「……どういうことでしょうか?」
「この戦いで重要なのは勝ち負けではなく、実力を近付けてオフィーリアさんを焦らせることです」
「焦らせる、ですか?」
「今まで色々と怠けたり自由にしていたのは、オフィーリアさんに敵う人が回りに誰もいなかったからだと思います。実力が近い人がいれば嫌でも周りから比べられます。ですから相手に『これは怠けてはいられない』と思わせられれば、それでいいんです」
「でもそれでしたら、Cランクなんかの私を育てるのではなく、この国のAランクを育成すればよいのでは?」
「ルシアさんが成長するのが一番大事なんですよ。彼女にとって身近であればあるほど焦りますし、副産物も多く得られますから」
「副産物……?」
「オフィーリアさんが浮気性なのは、ルシアさんとの実力が離れすぎているからでもあると思うんです。そのせいで束縛することも、逆に気軽に離れることもオフィーリアさんの方から一方的にできる関係になってしまっているんです」
「な、なるほど。確かに、オフィに決定権がありますね……」
「それとこれは私見ですが、強い女性は、ミステリアスで魅力的な人に映りがちだとも思いますから」
「っ!?」
「強くなって彼女を焦らせれば、怠けたり浮気をしたりしている暇なんてなくなると思いますよ」
僕はサクラさんを思い浮かべたのだが、エルーちゃんがこちらを羨望の眼差しで見つめていた。
エルーちゃん、そろそろ僕のことを男女のベン図の交わるところにいると思ってない……?
「流石はエリス様を恋に落としたお方。ソラ様は恋愛マスターでございますね」
「……」
恋愛経験皆無の僕を勝手に崇めないでよ。
これじゃあティスのこと言えなくなっちゃったじゃん……。
そうこう言っているうちに誰もいない場所に着く。
「そういえば聞いてませんでしたが、ルシアさんは何属性の魔法が使えますか?」
「私は風魔法です。中級魔法までは使えます」
「なるほど。じゃああそこかな……」
「ここで訓練をするのでしょうか……?」
『――光を抱く崇高なる神龍よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
山奥までデリバリーといきますか。
『――降臨せよ、教皇龍――』
横に張った魔法陣から飛び出してくると、いつものように背中を貸してくれる。
「さ、行きましょう」
「教皇龍様が、乗り物代わり……」
「ソラ様の非常識さには、今のうちになれておいた方がよろしいですよ」
……非常識で悪かったね。




