第128話 魅了
「ま、まさかソラ様の弟子を騙る不届き者がいるとは……。国中をあげて捜査をし、すぐに極刑を……」
「ま、待ってください!そんなことをする必要はないですから」
アレクシアさん、今回のことで大分聖女信仰が強くなったのかもしれないな……。
いや、サクラさんには隠し事をしていたみたいだから、どっちかというと僕個人への信仰心なのかもしれない。
「聞いている限りだと悪いことをしているというより、善行をしているみたいですから、放っておけばいいのでは?」
大聖女の弟子を騙るにしては、聞いている限りだと悪い人には見えない。
「しかし……リタのように表面だけ繕っている可能性もあります。それにこういう輩を放っておけば、真似をする悪い連中も現れてきますよ」
「うーん……では、私が人となりを確認してきますから。捕まえるかどうかはそれからにしてもらえませんか?」
翌日。
シエラになった僕とエルーちゃんとミア様でフィストリアの冒険者ギルドに赴いていた。
「ミア様までついてくる必要はなかったんじゃ……」
「こんな面白そうなこと、聖徒会広報が知らないわけにはいかないの!」
いや、単に興味があるだけだよね……。
今回はギルドの職員から情報を聞くことにした。
またギルドの隣の飲食店に行こうと思ってたんだけど、エルーちゃんに「あんなに不敬な人達のもとへソラ様をいかせたくありません」と断固拒否されてしまった。
まあ今回は他の情報収集方法があるし、わざわざ飲食店の方に行く必要はない。
「冒険者ギルドへようこそ。本日のご用件はなんでしょう?」
「あの、奥でお話しがしたいのですが。お時間取れますか?」
また騒がれては困るので、奥で話せるならそうしたい。
「……お手数ですが、水晶に触れていただけますか?会員のランクによって奥の部屋をお貸しできるか判断させていただきます」
あ、このままだとこの前と同じことになる気がする……。
「エルーちゃん、代わりにお願いできる?」
「はい!」
エルーちゃんもSランクだから多分大丈夫だろう。
エルーちゃんが手をかざすと受付の人がぎょっとするのが見えた。
「す、すぐにギルマスをお呼びします!少々お待ちくださいませ」
Sランクでもギルドマスター案件になるのか……。
僕が手をかざさなくて良かった。
すぐに奥へ通され、案内された部屋には褐色で耳のとがったお姉さんがソファに足を組んで座っていた。
すぐに出ていく受付のお姉さんがぱたりとドアを閉めると、ギルマスと思わしき女性は話を始める。
「あなたが聖国で最近噂の『水の賢者』様かしら?」
「う、噂になっているのですかっ!?」
「ハインリヒのギルドマスターから新しいSランク冒険者が生まれたって報告が来ていたからね。ギルマス界隈では最短でSランクになった者と噂になっているのよ」
ずいぶんと狭い界隈だな……。
でもハインリヒのギルマスのフォードさんは口軽そうだったからな……。
「えっ?エルーちゃん、Sランク冒険者なの!?」
「こんな可愛らしいメイドさんがSランクなのは、びっくりするわよね。さ、座って」
僕たちは反対側の複数人が座れるソファに腰掛ける。
ダークエルフ……。
足を組み換えるその仕草一つ一つに、魔法がかかっているかのように淫靡な雰囲気を醸している気がした。
「私は冒険者ギルドフィストリア支部、ギルドマスターのオフィーリア。よろしくね、お嬢さん達」
その言の葉と同時に、甘い色のもやが部屋に充満した。
「っ!?」
まさか、魅了魔法!?
ばっとエルーちゃんを見ると平気そうにしていたが、ミア様がもやに充てられてぼーっとしていた。
「キュア!」
ミア様にかかった魅了状態を解くと、ミア様はぱたりと倒れる。
そのまま僕は最短で対応できる武器をアイテムボックスから取り出した。
「霊刀鬼丸!」
僕は鞘のない状態で鬼丸を取り出すと首筋の横めがけて投擲する。
そのまま首横のソファにさくりと突き刺さるのに合わせて僕は全力で飛びかかり、そのままオフィーリアさんの座っていた一人用ソファを足で倒すと、左手で首を掴み倒す。
「っ!かはっ!?」
「シエラ様!?」
「……どういうつもりですか?」
「……なんのことかしら?」
首を掴む左手をしっかり固定すると、右手で倒れたソファに突き刺さった鬼丸を掴み、その刃先を首筋側に倒して近付けた。
「ミア様に、いえこの部屋全体に魅了魔法を放ったのは分かっています。返答次第によっては容赦しませんよ」
魅了魔法を人に向かって打つことはご法度だ。
僕とエルーちゃんは多分この人よりレベルが高かったから弾き返したが、ミア様は受けてしまっていた。
「……貴女、立場が分かっているのかしら?今ここでギルドマスターの私を殺したら、悪者はどう考えても貴女よ?王家が黙っていないわ」
王家が黙っていないのはどちらだろうか。
ああ、的外れなことを言っているのは、僕が今シエラだからか。
「シャイニング・バインド」
「くっ!?なんて頑丈な糸っ!?それに、光魔法使い!?貴女、刀術士ではなかったの?」
光の太い糸で縛り付けると、僕はオフィーリアさんから離れる。
人を操る魔法なんて、人にかけていい道理はない。
母親と姉に操られていた僕だからこそ、それは尚更許せなかった。
あまり権力に従わせるやり方はしたくなかったけど、シラを切るというのなら仕方ない。
僕がウィッグを外そうとすると、バン!と強く扉が開かれた。
「何々?何事!?」
扉の外を見ると、エルフの人が突っ立ったままこちらを見ていた。
「えっ……」
「いいところに来ましたね、ルー!この不届き者を追い出すのに協力してください!」
ルーと呼ばれたその人は、こちらを見つめるとだんだんわなわなと震えてそのまま膝をついてぺたんと座り込んでしまった。
「う、嘘……このとてつもない魔力量。もしかして、大聖女様……!?」
その反応……もしかしてこの人、ハイエルフ!?




