第13話 双杖
昼食を終えて庭園に出る。
聖女院の施設はいちいち荘厳だが、庭園はその中でもダントツだ。
まるでシャンパンタワーかのような噴水を通り抜けると、練習場のような場所に出る。
「さて、魔法についてだけど、エルーちゃんはどの属性?」
魔法には人それぞれ得意な属性がある。
僕たち聖女のように光魔法しか使えない人もいるし、2属性や稀に3属性使える人なんてのもいるらしい。
「私は……水属性です」
水属性だと、水を出したり氷を出したり、水関連全般を使える魔法が基本だ。
「水属性ね。私は使ったことはないけど、魔物から受けたことは数百回もあるからアドバイスはできるかもね」
「す、数百回ですかっ!?」
もちろんゲームの中での話なので自分自身が食らったわけではないんだけど、この世界にはゲーム機の概念がないため説明しても多分理解してもらえないだろう。
「戦闘実技試験は確か先生と戦闘をするのよね?」
「そうです。魔法が使えない人もいるので、そういった方は剣術や槍術、格闘術などをお使いになるそうです」
魔物が出る世界だから、いざというときに戦闘できることは大事だ。
「じゃあまずはこっちが防御してみるから、攻撃してみて。私の実力は分かっているだろうから、遠慮はしないでね?」
「は、はい」
エルーちゃんは頷くと、ウォーターショットを僕の顔に目掛けて打つ。
僕は身を翻して躱す。
すると今度はアイススピアが後方地面から迫り上がってきたので魔法障壁で弾く。
最後に左右両側から挟むようにアイスニードルを放ってきたので、杖をもう一本アイテムボックスから取り出し、左右両方に魔法障壁を張って弾いた。
「す、すごい……」
「エルーちゃん、杖をもう一つ使ってみる気はない?」
「もう一つ、ですか?」
「そう。前の攻撃の死角から攻めるようにしているから魔法の使い方は素晴らしいけど、手数が少ないのが問題ね。例えばさっきのアイスニードルを防ぐのに両手を使って左右に魔法障壁を張る必要があるけど、足はフリーの状態だから、その足を使って踏み込んでエルーちゃんに蹴りをいれることができる」
「あっ……」
僕は実際に身振り手振りで説明する。魔物との戦闘において、相手は待ってはくれない。
「で……ですが、杖を両方使うのは、魔力が……」
「ふむ……」
確かに魔力消費は激しくなるが、短期決戦にすれば問題ない。
「……確か試験では装備に縛りは無かったよね?」
「はい。それを含めての実践ですので」
少し考えて、僕は漆黒のワンドという名の杖を二つアイテムボックスから出し、エルーちゃんに渡した。
「これは手に装備すると消費魔力を半分にできる杖。これを二つ持てば更に半分になる」
つまり消費魔力が四分の一だ。初級魔法は1とか2で撃てるようになる。
「そ、そんな貴重な杖……いっ、いただけませんっ!」
「気にしないで……どうせあと900個以上あるから……。」
「きゅうひゃくっ!?」
あ、エルーちゃんの目がぐるぐるになった。廃人でごめんなさい……。
「あとこれ、魔力自動回復が付いた精霊のネックレス。これで初級魔法くらいなら撃ってもすぐに撃った分の魔力が回復して、実質撃ち放題になるの。試してみて」
僕はそう言いエルーちゃんにネックレスを付ける。女性にネックレスを付けるのは始めてだったので、なんだか妙に緊張してしまった。
左右の杖でアイスニードルを連発し驚いているエルーちゃん。
「すごい……魔力が減ってないです!」
「さあ、これで魔力切れも気にしなくていいから、二刀流ならぬ二杖流の練習、やってみましょうか。エルーちゃんが音を上げるまで付き合ってあげる」
「お、お手柔らかにお願いします……」
いや、あなた攻撃する側でしょうに……。