第124話 開幕
証拠は案外サクッと見つかった。
王城の外で見張りがいるなか、バルトさんは無言で雪を掘り起こす。
こんなことができているのは、貴族が湖を渡り、こちらに来ているからだ。
王城があるのは湖に浮かぶ孤島だが、パーティーの間は王城がある孤島と湖の回りの城下町との間に氷魔法で橋が張られ、そこを貴族達が渡ってパーティーに参加しに来るようだ。
僕たちは獏で見えないし、衛兵達も貴族の相手や監視をしているため、見つからずに物を回収することができた。
王城の中に戻り、適当な空き部屋に入って聖女院にワープする。
「ソラ様、バルト!ご無事で!」
「取り戻しました。こちらでお間違いないですか?」
「ええ。ありがとうございます」
「では、あとは準備してきますのでお待ちください」
僕は何度目かのワープでフィストリア王城に戻る。
ワープ陣を回収した後、空き部屋だと思っていたここは、メイドの控え室だということに気づいた。
「…………」
常時獏に透明化にさせておくのは、いくら僕でも魔力の減りが馬鹿にならない。
いざというときに魔力がないのも困るので、温存しておくことに越したことはない。
「……いや、決して正当化しようとしているわけではなくて……」
女性の更衣室に入っている時点で、すでに変態の烙印が押されてしまっているのだ。
幾度となく着替えさせられてきたメイド服だけど、だからといって自分から着たいわけじゃない。
男としての尊厳なんてすでにないようなもんだけど、それでも自分だけは男扱いしておきたいからね……。
まさか自分の意思でこれを着ることになるとは……。
「もう今更だよね……どうにでもなれ!」
尊厳と何か大切なものを失った僕は、パーティー会場に合流する。
僕は一応シエラの金髪ウィッグを被っており、万が一メイドさん達に聞かれることのないように『隠者の指輪』をはめて認識阻害をしている。
とはいえ『一体化』のように見えなくなるわけではないので、変な行動をすればすぐにばれてしまう。
今の僕はメイドさんになりきる必要があった。
「次の食事をお出しなさい。それとあなた、4番テーブルにワインを2つ運びなさい!」
「かしこまりました!」
完徹で疲れた体にこの労働はきつい……。
エルーちゃんや、聖女院にいるメイドさんはすごい人達だと改めて思う。
帰ったら、皆さんに「いつもありがとうございます」って言うことにしよう。
食事を運んでいると、ふと貴族の人達の会話が聞こえてくる。
「今日、ついにフィストリアの今後が決まるのか……」
「私、流石に8才の王女に仕えるのだけは不安でならないわ……」
「おい、滅多なことを言うもんじゃない」
「リタ様が擁立した貴族が次の女王になるという噂まであるが、誰かも分からない人に任せるのは不安だ……」
「アレクシア様がご健在ならこんなことにはならなかったのに……」
どちらの代替案も皆不安だということのようだ。
貴族までは買収されていなかったらしい。
「リタ様だ」
「リタ様よ!」
「隣にいるのは……アイヴィ王女と、誰だ?」
リタさんが会場に入ってきたようだ。
メイドのシンシアさんと、エレノア様も一緒だ。
アイヴィ王女は容姿こそエレノア様に似ているが、のほほんとした優しそうな王女様のようだ。
「待たせたわね。パーティーは楽しんでいるかしら?」
自信満々に言葉を紡ぎ始める。
どうやら捕虜がいなくなったことには気づいていないようだ。
「アレクシアが病気で伏している今、我々は次の女王を決めなければならない。だが次期候補のアイヴィ王女はまだ幼いため、しばらくは我が子に任せることにしたわ」
「リタ・フィストリアが娘、エレノア・フィストリアよ」
エレノア様が明らかに作っている声色で挨拶をする。
「リタ様に子供なんていらしたかしら?」
「公爵家の子供達なら我々が知っているのに知らないということは、本当にリタ様の子なのか……?」
ざわざわとしだす貴族達。
「皆が不安がるのは無理もないわ。だが聞いてほしい。我が子エレノアは、私に政権を渡さないためだけに女王アレクシアによって隠されたのよ」
そういえば、エレノア様やアレクシア女王から隠された理由については聞いていなかった。
まぁでもリタさんの言う通りだろう。
野望の塊であるリタさんなんかに政権を渡したら何が起こるか分からないなんて僕にでも分かる。
「エレノアお姉さまは、正真正銘私の従姉です。頭もよくて次期候補としては適任だと私も考えますわ」
まだ8才だというのに、しっかりしている人だ。
正直アイヴィ王女が次期女王でもいいような気もするけど……。
「アイヴィ王女が言うことで、わが娘の証明にもなるでしょう。我が娘は現在聖女学園で主席の頭脳を持つ天才よ。次期王女としてこれ程ふさわしい人間はいないわ」
エレノア様から聞いたが、最後まで聖女学園に行かせるのを拒んだのはリタさんらしい。
その拒んだ本人が堂々と主席であることをひけらかしているさまは、最早皮肉だ。
「あの各国の頭脳ある令嬢が集結する聖女学園で主席だって……!?」
「なんと、これはフィストリアも安泰かもしれないな……」
相手の言い分は全て聞いた。
今度はこちらの番だ。
僕はおもむろに床にワープ陣を投げ、アレクシア女王の持っている聖印の灯火を消した。
ワープ陣から現れたドレス姿のアレクシア女王は、全てを察して言葉を紡ぐ。
「待て皆のもの。そもそも私は健在だ」
「アレクシアッ……どうしてここに……!?」
「さあ、断罪の時間だ……リタ」




