第123話 協力
「大聖女様!ありがとうございました!」
「私達を助けてくださるばかりか、無償で衣服と食料をくださるとは、大変慈悲深いお方だ……」
アレクシア女王を探していると、色々な人に感謝されてしまった。
彼らはどうやら王城で働いている人たちの家族のようだ。
彼らが人質にされていたことで、王城で働いている人達はリタさんの命令に叛くことはできなくなってしまっていたらしい。
相手は権力を握るためなら何でもするようだ。
ただ実際にリタさんが命令して人質にされたという証拠がないので、この件でリタさんを糾弾することは叶わない。
奥に進むと、アレクシア女王の姿を見つけた。
「バルト、無事だったか!」
「ええ。陛下がご無事で爺は安心しました」
話していたのは、どうやら執事のおじいさんのようだ。
「陛下、実は例の件ですが……」
「まさか、見つけたのか?でかしたぞ!」
「い、いえ。見つけたのですが、持って帰る途中に私はリタ様の命で牢の中に入れられてしまいました。申し訳ございません」
「そうか……いや、お前が無事ならそれでいい」
「もったいなき御言葉……」
「あの……話の腰を折ってすみませんが、何の話ですか?」
「ソラ様!」
執事のバルトさんは僕を見ると深くお辞儀をする。
「我々をお救いいただき、重ね重ね御礼申し上げます。実は、我々はかねてよりリタ様の悪事の証拠となる書状があるかもしれないと睨んでおりました。それを私が見つけ、持ち帰る最中に私は捕まってしまったのです」
「差し支えなければ、悪事の内容をお伺いしてもよろしいですか?」
あれだけ隙をみせない人だ。
本当にそれが証拠になりうるのか、僕は確認したかった。
「……」
無言になるバルトさん。
あ、言えないような事だったのか……。
「構わん」
「殿下……」
「私に気を遣ってくれるのは有り難いが、私の方が立場は下なのだ。大聖女様に恥をかかせるな」
「あ、あの無理に聞くつもりはないですから。言いたくないことを聞いてしまいすみませんでした……」
「もういい、私が言う。亡き我が兄ウィリアムを、リタが殺したという証拠です」
「!?」
エレノア様のお父さんが亡くなっていたことにも驚いたが、それをリタさんが殺しただって!?
「ど、どうして……?リタさんは、ウィリアムさんを愛していたのではなかったのですか?」
「理由については分かりません。ですが今、私達にとって大事なのは理由ではなく、その証拠です」
「確かにそうですね。しかし、持ち帰る際に捕まったということは、もう取り返されてしまったのですよね?」
バルトさんは首を横に振った。
「いえ実は、嫌な予感がした私は証拠となる書状をアイテム袋に入れたあと、そのアイテム袋を王城の外に埋めておいたのです」
「なるほど。だが取り返されなかったのはでかいな。バルト、よくやってくれた」
「ということは、真っ先にそれを探さないといけませんね」
「協力して、くださるのですか?」
女王がそう言う。
「そのつもりです。ですが、証拠のありかを探すのは私とバルトさんの二人です。アレクシア女王はここで待機していてください」
「そ、そんな……!私では、足手まといだと?」
「単に獏の性質上、団体行動に向いていないだけです。人が多ければそれだけ物音がしますし、見えなくてもぶつかれば感付かれてしまいます。」
「……わかりました。忍びないですがそういうことなら」
「大丈夫です。今日のパーティまでには必ず間に合わせます。それとアレクシア女王にはこれを渡しておきますね」
僕は適当な紙を取り出して、自分の指紋を光らせ、聖印を捺す。
「私達が証拠を回収した後、パーティに潜入してきます。舞台が整ったらこの聖印を消しますので、女王はこれが消えたタイミングを合図にして、フィストリアにワープしてきてください」
聖印は、つけた本人の意思でいつでも消すことができる。
これは本来聖女が言葉巧みに騙されて契約を交わしてしまい、後になって気づいた時に困るので、消すことができるようになっているようだ。
一度ついた聖印が消えた契約は失効になるばかりか、聖女の信用を失ったという烙印まで押されるので、周りの人からの信用も失うことになる。
ただ、今回はただの合図として使うだけだ。
昨日から一睡もしていないので万全とは言えないが、今は急がないとパーティに間に合わない。
それに連発した最上級魔法と獏を長時間召喚しているせいで魔力の減りが早い。
僕は秘薬を飲んで魔力を回復し、体力と魔力を全快にする。
「バルトを、よろしくお願いします」
「獏、お願い」
バルトさんと一緒に透明になると、手を繋いでワープ陣に入る。
「さて、証拠を見つけましょう。バルトさん、案内を」
「かしこまりました。こちらです」




