第121話 密談
メイドのシンシアさんが扉を閉めると、エレノア様はふぅと一息吐いた。
「本当に、神経を使うよ……」
やはり、言葉遣いは演技だったみたいだ。
暗がりに慣れ少しばかり夜目も利いてきた。
エレノア様の近くによると、改めて本当に美人だと思わされる。
以前からお洒落に気を遣えば美人になるとは思っていたけど、きちんとするとこんなにも変わるものなのか……。
とはいえ寮ではあんなにだらしないのだから、きっとあれが素のエレノア様なのだろう。
部屋を見渡すと、窓もなければ物も最低限だ。
部屋そのものが、「死ぬことも逃げることも許されない」と物語っているかのようだ。
まるで向こうの世界の僕の部屋……いや、監獄だ。
「今頃寮の皆は、どうしているかな……。何も言わずに来ちゃったから、心配しているだろうな……」
エレノア様はダブルベッド程はある、フリルの付いたお洒落なベッドに横になる。
「そうですよ。皆心配してここまで来ちゃったんですから」
「だ、誰もごもご……」
大声が出そうだったので、慌ててその口を塞ぐ。
ベッドに押し倒しているような図になってしまっているのは、不可抗力だ……。
「落ち着いてください、エレノア様。外のメイドさんにバレてしまいますから……」
「その声、ソラ様か……!?」
「はい。見えなくてすみません」
「そ、そうか、聖獣獏様のお力か……」
相変わらず頭の回転が早くて助かる。
安心したエレノア様を見て、押し倒していたようになっていた手を退ける。
「そのまま聞いてください。またメイドさんが来るかもしれませんから」
「皆は?」
「ミア様とフローリアさんとエルーちゃんが北の国の宿へ来ています」
「そうか、心配かけちゃったね……」
僕は大きなベッドでエレノア様のとなりに座る。
「エレノア様、今ワープ陣を敷きますから……」
「いや、ボクは助けなくていい」
「……どういうことですか?」
エレノア様が言葉遣いからしても無理をしているのは明白なのに……。
「ボクがアレクシア女王の姪だということは?」
「ええ、知っています」
「母上はボクを次期女王にするために何がなんでも連れ戻そうとするだろう。だが、逆に言うとボクはここにいる限り安全だ。こんなしょうもない権力争いに、ソラ様達を巻き込みたくはないんだ……」
「……未練はないんですか?」
女王になってしまえば、学園にはいれないだろう。
あんなに楽しそうだった聖女院クラフト研究室への内定も蹴るというのだろうか?
「……母上は誘拐してでもボクを連れ戻しに来た。そんなボクのそばにいるのは……」
「そういうことじゃありません!」
僕は悲しかった。
「図書館のクラフト本をこっちに持ってきてしまう程未練があったんじゃないんですか……?」
「そ、それは……」
かつて友人と言ってくれたエレノア様に、相談してもらえなかったことが。
「あなたが友人と言ってくれたあの時から、私はあなたの友人です。誘拐されるなら何度でも連れ戻しますし、私の全てをもってあなたを隠すこともできます」
「……」
「お願いですから……私を、頼ってください」
僕がお願いをすると、エレノア様はこちらを向き直した。
「ボクはどうなってもいい。だがボクが聖女学園に行けるように手配してくれたアレクシア女王……いや私の友人をどうか助けてはくれないだろうか?」
自分よりも女王のことを気にかけるなんて、相当だ。
「任せてください。両方助けてみせますから」
「お願いしたところ悪いんだが、実は女王がどこに匿われているか分からないんだ。病に伏せているから、どこかの部屋に寝ているはずなんだが、ボクはこの通り動けないからね……」
あんなに厳重なのだから、仕方ないだろう。
「大丈夫ですよ。その情報さえあればこと足ります。聖女をなめないでください!」




