閑話33 くノ一
【嶺忍視点】
サクラ様にお願いされて、自室に戻って準備をする。
「忍、これは試練よ。信用を勝ち取るために、必ず成し遂げなさい」
「勿論です、お母様」
食料などをアイテム袋に入れて準備を済ませ、ワープ陣から北の国へ向かう。
以前ソラ様の監視護衛をしていたときに、ふとお風呂場でその立派なものを見てしまったときは、思わず嬉しくて叫びたくなってしまった。
最初は女性と伺っていたので、ソラ様の卵子を保存魔法でいただき、聖女院魔術研究室によって開発された、女性同士で子供を作るための魔法を使って私に植え付けるつもりでいた。
この魔法は第97代のジーナ・ジンデル様が御自身の専属メイドと結婚し、お互いの卵子からお互いに子を成し、そして共に産んだ実績もある、まさに聖女様の願いをも叶える魔法だ。
専門家ではないので詳しいことは分からないが、保存した卵子に魔法をかけて精へと変え、受精を行えるようにするらしい。
ジンデル家はいまもまだ健在だし、聖女様がこれを行い成功したことで、世の中の女性同士というものの価値観を変えてしまった。
女性同士は、今の世のブームなのだ。
嶺家としてその血を濃くしようという気持ちは私にもある。
だから私は、この技術を使って嶺家の直系である奏天様のお子を成そうと思っていた。
しかし、ソラ様は殿方だった。
神様は、私に嶺家としての血を濃くさせてくれるばかりではなく、私に女としての快楽までお許しになられるというのだろうか。
「エリス様、そのお慈悲に深く感謝いたします……」
私はお祈りを済ませ、ソラ様を探す。
恐らく教皇龍様に乗られて来ることだろうと予想したお母様の読み通り、空を見張っていると、大きな翼が見えてきた。
サクラ様のワープ陣がなければ、ソラ様を追うことも叶わなかっただろう。
こちらに向かってくるそのご尊顔を確認し、見張りを開始する。
あれが私が生涯をかけて御守りし、そして子を成す番となるお方……。
正直普通の、いやとびきり可愛らしい女の子にしか見えない見た目をしているが、あんなに雄々しいものを……。
しばらく監視していると、朱雀寮のメンバーと共に、エレノア様の行方を調査しておられるようだ。
エルーシア様と冒険者ギルドに向かうソラ様。
エルーシア様は正妻候補の、ソラ様と同じく女神のような慈愛に溢れた心をもったお方だ。
私はお子を成せれば良いので、側室で構わない。
正妻になろうなどとおこがましいことは考えていない。
だが冒険者ギルドの食堂で夜の相手を所望されたときは、腸が煮え繰り返ってしまった。
すぐさまソラ様があの男の粗末な腕をへし折っていただけたから、それも治まった。
とはいえ、私にあれだけの力はない。
私が嫁げるのは強い男性だということに嬉しさを感じつつ、同時にこのお方を守る立場になれるのか不安にも駆られた。
そして夜。
情報を共有したのち、ソラ様は眠らずにベランダで考え事をしていらした。
そして立ち上がると、何やら杖を取り出した。
『――幻影を照らす寡黙なる聖獣よ、今ひと度吾われに力を貸し与えたまえ――』
詠唱!?
魔法陣を展開しているから、十中八九最上級魔法だろう。
『――顕現せよ、聖獣獏――』
月夜と魔法陣、可憐なソラ様がまるで芸術のようにきらびやかに写る。
その光景に見とれて次の行動への思考が鈍っていたのかもしれない。
「獏、『クリアモード』!」
しまった……!?
「獏、私にもかけて」
意味深な台詞と共に、みるみるとソラ様がスケスケになられていく。
とても扇情的だと思いながらも、内心は焦り散らかしていた。
聖獣獏様の透明魔法は、魔力が見えるハイエルフか精霊か、もしくは聖女様しか見破れない。
私には、もうどうすることもできないということだ。
「よし、行こう!」
どこへ行くかは明白だが、私が先回りしたところで王城にある見張りを潜り抜けるのは至難の技だし、私のせいでソラ様の潜入調査が失敗に終われば信用どころではなくなる。
恐らく水中か空から行くのだろうが、同じような手段はとれない。
「お母様、任務失敗です……」




