閑話32 心配性
【柚季桜視点】
ソラちゃんが北の国に行くという話を聞いた後、私は心配でならなかった。
あの国は外面こそ良くしているものの、その中身は分からない。
いくら私より強いといえど、あんな場所にソラちゃんを一人で行かせるのは、正直忍びない。
しかし、わがままだけれどアレンには一緒にいてほしい。
「こうなったら、最終手段を取るか……」
私たち聖女にはその影となる『聖影』と呼ばれる集団がいる。
親衛隊とは別の組織で、密偵から陰の護衛、潜入調査、暗殺まで幅広く行う組織だ。
聖女のやらないような汚れ役を担っているのだけれど、そもそも聖女は皆エリスが仲良くなれそうで、とてもお人好しな性格の人しか選んでいないので、影を護衛以外の目的で進んで使いたがる人などいない。
わたしもそうだけど、なるべくなら汚い仕事はさせたくない。
なので今回はあくまで護衛として、だ。
「杏、いるかしら?」
「はっ!」
声がすると、幻影魔法が解かれ膝をつきその姿を現す。
杏はいつものような忍装束に身を包んでいた。
「どうしてここにいるのよ……」
「四六時中の護衛が私の任務となりますので」
「まさか、私とアレンの情事まで見ていないわよね……?」
「四六時中の護衛が私の任務となりますので」
「……嶺家の人間は本当にろくなのがいないわね……」
こんなのにお願いするのは正直嫌なのだけれど、今回はそうも言っていられない。
「まさか、ソラちゃんにも同じことしているんじゃないでしょうね……?」
「……」
その無言が答えになっているわよ……。
「……まあいいわ。実はソラちゃんがフィストリアに行くのだけど、その護衛をお願いしたいの」
「承知しております。今回は忍を行かせるつもりです」
「忍ちゃんか……」
「忍、御挨拶なさい」
「はっ!」
すると同じく忍装束に身を包んだ忍ちゃんも幻影魔法を解き膝をつく。
「本当になんでいるのよ……。親子揃ってろくでもないの、やめて頂戴……」
私のプライバシーくらい守ってほしいわ……。
「私が北に行くときに使っているワープ陣を使っていいから、先回りしてソラちゃんの護衛をお願いするわ」
「はっ!」
まあこんなでも、仕事はきっちりしてくれるから、信頼してはいるのだけれど。
「いい?忍ちゃん、今回はバレないようにして頂戴ね。私の計画を台無しにしたら許さないわよ」
「心得ております」
「忍、今はまだ我慢の時よ。我慢が汁になるくらいまでは待ちましょう」
「大丈夫です、お母様。ソラ様には私を突いていただける御立派なものが付いていらっしゃいますから」
ソラちゃんの、立派なのね……。
というか堂々と覗いていることを自白しないでくれるかしら……?
「……手を出すにしても、来年からにして頂戴……」
本当にろくでもない考えをしているのよね、この家は。
聖影の中でも、東の国に家を置く忍者の家系である嶺家は特に優秀だから、私もあまり強くは言えないのだけれど。
嶺家としての血を濃くしたいから、楓さんのお孫さんであるソラちゃんに手を出させようとしているなんて、ソラちゃんにはとてもじゃないけど言えないわよ……。
楓さんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ……。
「じゃあ、お願いね」
そう言うと、二人とも幻影魔法で姿をくらました。
「さて、おとなしく吉報を待ちますか……」
あの子に何もないことを祈っておきましょう。




