第113話 縁談
いよいよ縁談の日。
ルークさんのおめかしも十分に、あとはリリエラさん達を待つだけだ。
「リリエラさんはソラがシエラであることは知らないですから……」
「承知しています」
「マクラレン侯爵様方が参られました」
その確認だけをしておき、僕はルークさんと一旦別れ、お義父さんと一緒にリリエラさんを迎えに行く。
「マーク、王家のパーティーぶりだな」
「ああ。我が家にようこそ」
「シエラさん!」
「リリエラさん、パーティでは本当にありがとうございました。貴女がいなければ、私は大切な家族を失うところでした……」
「よしてください。私は親友の悲しい顔を見たくなかっただけです」
やっぱり、リリエラさんは格好良いな。
「私にできることはあまりありませんが、大好きなお二人がうまくいくよう応援しますね!」
「ほ、本当にうまくいくでしょうか……?」
そして恋愛には奥手なところが可愛らしい。
「きっと大丈夫です。さ、行きましょう!」
「リリエラさん、聖女祭以来ですね」
「ル、ルーク様……お久しぶりです」
リリエラさんから「手を握っていてほしい」と言われてそうしていた。
「リリエラさんは将来の夢はありますか?」
ルークさん、何そのトークチョイス……?
「わ、私は将来聖女様の秘書のようなことができたらと思っております……」
そ、そんなこと思ってたんだ……。
「ははは、リリエラは優秀ですよ」
ダリル侯爵は明らかに僕の方を向いて、まるで「うちの娘を秘書にどうですか?」とでも言いたげだ。
そういえばダリル侯爵にはソラだってシルヴィアさんがバラしてるんだっけ……。
確かに僕にないものを与えてくれるリリエラさんが秘書なら嬉しいけど、今はそういうことじゃないでしょ……。
「では、秘書になって何を為したいのですか?」
「はい、私は……」
「いやいや、ちょっと待ってくださいお兄様!これではお見合いではなく、職業面接ではありませんか?」
「……いやぁ、あはは。すみません、つい……」
「い、いえ……」
つい、じゃないよもう……。
頑張り屋さん同士だから仕事の話になる気持ちは分かるけど、今は面接の時間じゃないよ……。
その後は二人で歓談となり、僕たち家族は別室で話すことに。
「リリエラさん、大丈夫でしょうか……?」
「心配かい?」
「リリエラを泣かせるようなら、それまでの男だと言うことだ……」
「……ダリル侯爵様はお見合いには反対なのでしょうか?」
僕がそう聞くと、ダリル侯爵はばつが悪そうにする。
「いや、そういうわけでは……」
僕が聞くのはちょっと意地悪だったかもしれない……。
「あなた、さっきからなんだか様子が変よ?」
しまった、マリエラ侯爵夫人に余計な心配をかけてしまった……。
「すみません、マリエラ様。私のせいで……」
「……どういうこと?」
僕はおもむろにウィッグを外して顔を見せる。
「……だ、大聖女様!?」
まあ!?と言わんばかりのマリエラ夫人。
「あ、あなたは知っていたの?」
「あ、ああ……以前シルヴィア様に……」
「そう畏まらないでください。これから家族になるかもしれないのですから……」
「ふふ、それもそうね。シエラちゃん、よろしくね」
「はいっ!」
歓談を終えたリリエラさんに話を聞く。
「リリエラさん、どうでしたか?」
「毎月一回聖女院で秘書見習いとしてルーク様のお手伝いをすることになりました」
どうしてそうなった!?
ルークさんの仕事人間っぷりに呆れてしまったが、リリエラさんのとても嬉しそうな顔を見てしまい、僕は怒るに怒れなかった……。




