閑話31 高鳴り
【橘涼花視点】
目が覚めると、いつの間にか私の部屋にいた。
私は王家のパーティーに参加していたと思うんだが、何故ここにいるのだろうか?
うまく思い出せない……。
するとコンコンとノックする音が聞こえてきた。
「涼花、起きたかい?」
「ああ、どうぞ」
部屋に入ってきたのは父上だった。
「こんな時間に、どうしたの?」
「きっと今の涼花には、説明が必要だと思うから」
「そうなんだ。実はパーティーの途中から記憶がなくて……」
「涼花はグラスを飲んでから倒れたそうだね。そのグラスには毒が入っていたそうなんだ」
「……何故そのことを父上が?」
父上はパーティーには参加していないはず。
「ソラ様と……シエラさんが涼花を抱えてきたんだ」
その言葉で、私は倒れてからソラ様が助けてくださったことを思い出した。
「ソラ様が……?」
「もう帰られたけど、お二人とも終始頭を下げておられたよ」
「ど、どうして……!?」
謝られるようなことはしていないと思うんだが……。
父上はソラ様とシエラ君から聞いた話をそのまま伝えてくれた。
私はどうやら擬態していたバフォメットが持ってきた毒の入ったグラスを飲んでしまったらしい。
確かに駆けつけたソラ様に助けていただいたところまではうっすらと覚えている。
バフォメットはシエラ君に毒を盛ろうとしたらしく、最初から全て自分が飲んでいれば私に迷惑をかけることはなかったと言っていたそうだ。
いくら回復できるとはいえ、それは自己犠牲が過ぎるだろう。
「謝られるようなことではないよ」
「涼花ならそう言うと思ったから、私がそう言っておいたよ」
「そうか。ありがとう」
そこまで言うと、父上は部屋を出た。
ソラ様は、神様が愛されたお方だ
私にとって、文字通り雲の上のような存在だ。
『涼花さん……貴女は絶対に助けますから!』
あの時のソラ様の一滴の涙を私が作らせていたのかと思うと、私は顔が紅くなった。
あのご尊顔を近くで、それも私に覆い被さって、私のためにあんなにも必死な顔をなさって――
「っ!?」
途端に心の奥底からきゅんと疼くような感覚が襲ってきた。
ベッドにいた新しい仲間、ソラ様のぬいぐるみである『ソラちゃん』をぎゅっと抱きしめる。
いつもお世話になっているぬいぐるみ店が、ソラ様の生誕祭の時に売っていた新作だ。
「切ないよ、ソラちゃん……」
刀を振るうことで煩悩を消し去ろうとしてきたが、これはどうにもならないようだ。
墓場まで持っていくと決めたのに、揺らいでしまいそうだ。
唯一秘密を共有しているシエラ君に今度話してみるのもありかもしれないな……。
この疼きを鎮めるのには、しばらく時間がかかりそうだ。




