閑話30 メイド
【メルヴィナ視点】
本日は聖国王室が開く社交パーティー。
◯交パーティーって一文字伏せるだけで、途端にいやらしくなりますよね!
シエラ様のご家族として変な格好はさせられないということで、私は聖女院に招かれ奥様と旦那様の準備をお手伝いしておりました。
顔合わせでシエラ様のお顔を拝見した時は、思わず卒倒するかと思いました。
あの可愛らしさで「メルヴィナお姉ちゃん」と言われてしまったら、私は天に召されてしまうことでしょう。
最高の状態で旦那様方を送り出した後、私達メイドは主人がお戻りになるまでの間、暫しの休息が与えられました。
休憩室に行くと、サクラ様専属侍女のカーラ先輩とソラ様専属侍女のエルーシア様がご歓談しておられました。
「カーラ先輩、お久しぶりです」
「あらメルヴィナ、久しぶりね」
「先輩……ということは、お二人は聖メイド中等学校の?」
「そうよ。メルヴィナがひとつ下なの」
「そうだったのですね」
「カーラ先輩は学校でも伝説が多かったお方ですからね」
「よして頂戴。もう昔の話よ……」
「私もお聞きしたことがあります。『白銀の女神』と言われる美貌で恋に堕ちる人も多かったと……」
「なっ、どうして知っているのよ……?」
まさかエルーシア様がご存じとは私も知りませんでした。
「伝説として語り継がれておりますから……」
「どうしてそんなことに……」
「あ……」
「メルヴィナ……貴女の仕業ね……!?」
カーラ先輩は冷徹な顔でしたが、ふとピリッとした感覚がし怒りを露にしていることに気付きました。
「はぁ、まあいいわ……。でも、エルーシアだって大聖女様の専属になる程なのだから、メイド学校では人気者だったんじゃないの?」
聖女様の専属侍女は聖女様と同い年であること、そして容姿、性格、メイドとしての技術、全てを厳正に調査し通過したただ一人の方々です。
容姿だけ見ても私などとは程遠い、カーラ先輩が月の静けさのような美貌というのなら、エルーシア様は太陽のような可憐な笑顔といえます。
「わ、私はそんなことは……」
「バレンタインでチョコはいくつ貰ったのでしょうか?」
「それは……数えきれなかったですけど……」
「「数えきれないほど……!?」」
予想外の返しに、思わず先輩とハモってしまいました。
「ち、違うんです!その、私が子供っぽいからなのか、普段から歩いていると皆さんお菓子をくださるんです……」
エルーシア様のそのお言葉に、私達は納得してしまいました。
「なるほど、貢ぎたくなるほどの母性を抱かせる可愛さ……。確かにしっくりきますね……」
「そ、そんなんじゃないですっ!?」
あわあわと取り繕うエルーシア様も可愛らしすぎて、思わず抱き締めたくなってしまいます。
「そんなお二人なら、恋愛話のひとつや二つ、おありなのでは?」
「私はサクラ様一筋ですから」
「アレン様とご結婚されても変わらずですよね、先輩は」
「アレのおかげで幸せそうなサクラ様が見れるのですから、仕方ありません」
「アレって……」
「あろうことかサクラ様に種までつけるとは……」
サクラ様のことになると急に意味不明なことを言い始めるのも、きっとカーラ先輩らしさなのでしょう。
「サクラ様のお子さま、きっとお可愛らしいのでしょうね」
「エルーシア、あなた話が分かるわね!今から楽しみだわ……」
機転を利かせる聞き上手のエルーシア様。
「そういうエルーシア様はどうなのでしょうか?ソラ様はその……アレですから、大変なのでは?」
「メルヴィナ、シエラ様がソラ様であることは聖女院の皆が知っているわよ?」
「……」
そちらではないんです、カーラ先輩。
ということは、カーラ先輩はソラ様が殿方とは知らないのですね。
どうやら私はトップシークレットの情報を入手してしまっていたようです。
「わ、わたしはソラ様とは……その……」
すると途端に甘い香りがして、とてつもない恋慕の感情が私に押し寄せてきました。
「まさか、エルーシア様も……?」
カーラ先輩もそうですが、専属侍女様方は聖女様という可憐な方と毎日過ごしておりますから、そこから恋愛に発展することも多いのでしょうか?
過去に専属侍女と女性同士で結婚した聖女様もいらっしゃいましたから、きっとそうなのでしょう。
「あ、は、はい……ソラ様を、お、お慕いして……おります」
な、なんという尊さ……!
あの可憐の頂点に立つようなソラ様とエルーシア様の特別な関係!
これで小説がひとつかけてしまうくらいの熱量を感じ、思わず抱き締めてしまいました。
「め、めぅびなはま、く、くるひぃでふ」
もがくエルーシア様もまた可愛らしい、これは反則でございます。
「何やっているのよ、メルヴィナ……」
「こんな尊いお二人を引き裂くなど……。お相手がエリス様でなければ私は応援いたしましたのに……」
神様であるエリス様がソラ様をお好きなことは周知の事実です。
ソラ様、なんと罪なお方でしょうか……!
「い、いえ実は……なぜかエリス様が認めてくださっていまして……」
「なんですって!?」
「な、なんと……!?」
曰く、実際にエリス様にお会いしてソラ様の好意を断ったことを逆に怒られてしまったのだとか。
エリス様、そのお気持ちわかります。
推しには幸せになって頂きたいですからね。
というか、既に一度ソラ様からお情けをいただいていらっしゃるなんて……!
この可憐なお二人が結ばれる世界線があると聞いた私は、応援せずにはいられません。
「羨ましいわ……。でも女同士は色々と大変よ?何せアレン様のような女狐が奪おうとしてくるもの……」
女狐て……アレン様は殿方でしょうに。
「ええと……その……」
トップシークレットの情報を開示するわけにもいかず、あたふたとするエルーシア様。
それから私とエルーシア様と二人で、カーラ先輩にあれやこれやと取り繕うことになるのでした。




