閑話29 詫び言
【ブルーム視点】
夕飯の支度をしていると、玄関から音がしました。
王家のパーティーに参加すると言って出掛けた涼花が帰ってきたのだと思い私が戸を開けると、なんといらしたのは涼花を抱き抱えている大聖女様でした。
「おかえりな……ソ、ソラ様!?」
「夜分に申し訳ございません。涼花さんをベッドへ……」
「わ、私が代わります!」
その小さなお体で御自身より体躯の大きな涼花を運ぶのも大変でしょうに、嫌な顔ひとつせずに抱えているのを見て、思わずそう言ってしまいました。
家へあがっていただき、その間に寝ている涼花を涼花の部屋に連れていきます。
相変わらず私と同じでとても良い趣味をしている部屋へ入ると、ベッドへ寝かせます。
久しぶりに抱っこをした我が子の重みを感じ、あんなに小さかった涼花がこんなにも成長したのかと嬉しくなりました。
こんなこと、本人には言えませんけどね……。
居間に戻りお茶をお出しすると、一口もつけずにそのまま私に土下座をなさいました。
「涼花さんを巻き込んでしまい、大変申し訳ございませんでした」
「そんな、顔をおあげください!」
ソラ様は仔細を全て話してくださいました。
なんでもソラ様のお弟子様であるシエラさんがバフォメットに操られた貴族の方に毒を飲まされ、仲裁した涼花と控え室に移動したあと、涼花が毒と気付かずに飲みかけの毒を飲んでしまったとのこと。
慌てて駆けつけたソラ様によって涼花は助かったそうです。
「ソラ様……私は涼花を助けていただいたことに感謝こそすれ、あなた様を恨むことなど……」
「いいえ、そうでは……そうでは、ないのです……」
私の言葉を遮るように綴る言葉は、とても重々しく感じました。
「ブルームさんは、シエラの様相をご存じでしょうか……?」
「お会いしたことはございませんが、涼花がよく話をするので、聞き及んでおります。金髪で小柄な女性で、大聖女様のように可憐だと……」
「では、これでお分かりになりますか……?」
ソラ様が葵もよく使っていたアイテムボックスから取り出したのは金色のウィッグでした。
「ま、まさか……」
ソラ様がそれをそのままお召しになると、まるで魔法のように涼花がいつも話題に出していた聞き覚えのある特徴の少女が出来上がったのです。
「奏天として、そしてシエラ・シュライヒとして、涼花様にご迷惑をお掛けしたこと、誠に申し訳ございませんでした……」
再び深々と低頭なさるソラ様……いえシエラ様。
聖女学園での慣例の様付けを守っておられるということは、ソラ様が本当にシエラ様であることを意味しています。
「顔をおあげください、シエラ様」
「シエラに敬語は不要です……」
「では、シエラさん」
私は、涼花がこんなにも優しい性格に育ってくれたことが嬉しかった……。
「涼花はシエラさんに謝って欲しくて、助けようと思ったわけではないと思いますよ」
涼花は人の笑顔を第一に考える子ですから。
「ありがとう……ございます……。皆さん本当に……優しいんですから……」
神秘的な涙とともにそう言うシエラさん。
魔物の仕業であるのにわざわざ謝りにまで来られるソラ様の方が、優しいお人柄だと私は思いました。




