第11話 余興
廊下から教室を見ていると、生徒はおろか、先生まで手を振ってくるので完全に授業の邪魔をしてしまっている。
僕、こんなのでまともに授業受けられるのかな……?
廊下に繋がる渡り廊下を歩いた先には、多目的ホールのような広いスペースがあった。壁は灰色の……コンクリートに近い固い素材のようだ。
「あら?ソラちゃんにエルーちゃんじゃない」
「サクラさん!?どうしてここに?」
生徒を教えてる先生かと思ったらサクラさんだった。
「私はここで月に一回、主に戦闘全般の授業を行っているの。ソラちゃん達こそ、どうしてここに?」
「私は見学に来ただけです」
「あのあのっ、大聖女さまですか?」
「お会いできて嬉しいです!」
「サクラ様と仲がよろしいのですね!」
「あらあら、大聖女さまは大人気ね。この子達は、来月から3年生になる子達よ」
「はじめまして、カナデ・ソラです」
挨拶すると、わいわいと寄って握手を求めてくる。
「ソラちゃん、せっかくだからさ、少し動いてかない?」
動くって、そういうことだよね……?
オフラインゲームなので対人要素はない。そういった意味では新鮮だ。
「構いませんが……この壁、大丈夫なんです?」
コンコンと叩くと固いが、聖女の魔法に耐えられるかはわからない。
「この壁は聖女さまが作った壁だから、とっても頑丈よ。なんなら試しに撃ってみたら?」
そう言われると試したくなる。
興味本位が勝りしばらく魔力をため、上級魔法のディバインレーザーを唱えると、壁の一部が砂になってしまった……。
「あ……ご、ごめんなさい……直します。……リカバー」
あわててもとに戻すと、唖然としたサクラさん。
「サクラさまでもびくともしないあの壁を壊すなんて……」
「しかも自力で戻せるんだ……」
生徒の皆さんも口をポカンとしている。
エバ聖ではレベルがカンストしないと手に入らないアイテムがある。だからお互いにレベルはカンストしている。
差があるとしたら精々、能力アップのグミをどれだけ食べたかくらいの差だろう。
「……ごめんなさい、ちょっと軽率だったわ……。グミの上昇分は手加減してもらえると助かるわ」
手加減と言われても……ひとまず魔法は初級だけにしておこう。
「皆は危ないから観客席にあがって見てなさい」
サクラさんがそう言うと、生徒さん達は「サクラ様に手加減って……大聖女さまって……実は怒らせるとヤバい……?」などと、不穏なことを言いながら観客席に上がる。
「私も久しぶりに本気で闘えるから嬉しいわ」
そう言うとサクラさんはラストダンジョンで手に入る杖と小回りのきく小さな杖を取り出した。サクラさんはダブル魔法タイプらしい。
斬擊武器は対人で使いたくないから、これかなぁ。
僕は両端が黄色、中央が黒の如意棒のようなステッキをアイテムボックスから出す。打撃具としても、杖としても使える便利武器だ。
「先手はもらうわね!」
サクラさんは初級魔法の追尾フレアを放つ。追尾性能がある10個ほどの光炎の玉を順に投げる魔法だ。
僕はそのまま距離を詰めながら魔法障壁で受け止め、まずは小手調べで突き、凪払い、回転擊のコンボを放つ。
小さい杖で物理障壁を張って防御すると、上から不気味な牙が付いた本が降ってきた。強化魔法をかけて後ろに飛んで避けた。
流石に物理は対策されているらしい。今度は魔法を試そう。
僕が初級のレインアローを唱えると、サクラさんめがけて無数の光の矢が落ちてゆく。魔法障壁で防がれ、中級のレインスピアが降り刺さってきた。
ガンガンと地に刺さる音を確認しながら新体操のようにバク転をしながら後ろに避けてゆく。これも身体強化の賜物だ。
物理は物理障壁、魔法は魔法障壁できちんと受け止める。
この基礎知識は、聖女なら当然頭に入っているということなのだろう。
次なる手を考え、地面に刺さっていたスピアを一本抜くと、サクラさんに向かって走る。2体の本を召喚したので追尾フレアで倒す。
そのまま距離を詰めスピアで突き、回転連擊、足払いを行ったのち、自分はバク転しつつ地面から初級のスピアを放ち、その後持っていたスピアを投げる。
物理と魔法、両方の技を連擊に組み込めば、両杖を使って両方の障壁を張らないといけなくなる。
投げたスピアを両障壁ではじくタイミングで「エンチャントフレア」と唱え、魔法を付与したステッキをぶつける。
パリンと壊れた障壁を確認しながらステッキを首筋に当てた。
「……参りました。まさか、両刀使いだったなんて。流石ね」
「……効率の良い闘い方をしていった末路ですよ……。みんな最後にはああなるんです……多分」
遠い目でそう答えると、僕はサクラさんと握手を交わした。
後ろでは拍手が響いていた。
「すごい!サクラ様に勝ってしまわれるなんて……」
「動きが見えなかった……!」
「私も勉強になったわ。エンチャント物理擊で両障壁割るなんて、流石に考えなかったもの」
それからはサクラ先生とともに生徒さんの指導をしていた。
僕、来月からここに通うのに教える側にいて大丈夫なのだろうか……?
――夕刻まで指導に付き合った帰り道、サクラさんと帰ることに。
「どうだった、聖女学園は?」
「なんというか……心配ですね。聖女だと勉学や交流に支障が出るみたいですから。私は平穏に過ごしたいのですが……」
「それ、手がないわけではないわよ?」
「えっ……?」
不敵な笑みに、おもわずたじろぐ。
「今日のお礼に、私が準備しておくわ。ふふっ、試験当日を期待していてね!」
既に不穏なんですけど……。
横にいたエルーちゃんとアイコンタクトで苦笑いし、内心は一層不安になるのだった――