第106話 社交
パーティー当日。
聖女院は朝から忙しない。
シエラとして社交界デビューとなるため、第一印象を良くすべく盛りに盛る。
入念なメイドチェックを受けつつ別のメイドさんからこの世界の礼儀作法を学ぶ。
出来上がった僕はもはや別人で、男の要素が1パーセントも残っていなかった。
「御綺麗で御座います」
シュライヒ家の皆さんもシエラの家族として参列するため下手なメイクはさせられないとのことで、聖女院総出でおめかしをしている。
聖女院のメイクさんは世界一と言われているらしく、このように僕を別人のようにすることもできる。
出来上がった様相を確認する皆さんは満足げだ。
「かわいいシエラちゃんと並ぶのは少し気が引けていたけど、これならいいわね」
「お義母様は、いつも御綺麗ですよ」
「あら、お上手ね。ふふふ」
「じゃ、いこうか」
聖女院の僕の棟とサクラさんの棟は渡り廊下で繋がっている。
渡り廊下からやってきたアレンさんとサクラさんと合流し、一時的に王城において貰ったワープ陣に移動する。
「本当に女の子ね……」
……悔しいけど僕もそう思う。
回る順番はお義母さんに完全におまかせ状態だ。
僕の希望であまり新しい人とは逢わないように、できるだけ学園生の人を見繕って貰うようお願いしておいた。
同じ侯爵同士ということで、まずはリリエラさんに挨拶に行くことに。
「シエラさん、お久しぶりですわ。そのお姿、とても似合っておりますわ」
「リリエラさん、お久しぶりです。リリエラさんこそ、とてもお似合いです」
リリエラさんは蝶のような鮮やかなドレスだ。
「シエラさん、私の父と母をご紹介します」
「父の……ダリル・マクラレンだ」
「母のマリエラ・マクラレンです」
こちらもあらためて紹介をし、話は約束の件についてとなった。
「そういえば、両親の合意を得まして……」
「本当ですか!?ではお兄様に予定を空けていただくようにお願いしておきますね!」
「よ、よろしくおねがいします……」
僕にとっての楽しみが増えた。
「そうだわ、フォークナー伯爵のところへ向かいましょう!」
リリエラさんの案内でフォークナー伯爵のところへ向かうと、同じクラスのノエルさんとイザベラさんがいた。
「シエラ嬢、リリエラ嬢!」
「お久しぶりです、ライマン公爵様、フォークナー伯爵様。ご紹介いたします。シエラ・シュライヒさんです」
「おお、リリエラ嬢。それと君が噂の……!」
「大聖女様の……」
ライマン公爵は甘いマスクという感じの整った顔立ちのエルフの男性だ。
フォークナー伯爵は逆に、死線を潜り抜けた戦士のような顔つきで、渋い声の人だ。
「いつもノエルが世話になっている!」
「もう、お父様……。恥ずかしいですからやめてくださいまし」
「シエラ嬢、ご紹介します。私の弟のマット・フォークナーです」
「初めまして、マットと、申します。シエラ様、御綺麗で、ございます」
まだ小さいのに、しっかりした子だ。
台詞を準備してきた感じがするのがまた良い。
それにかわいくて放っておけない感じがするから、そういう人達に人気がありそう。
「ありがとう。よろしくね」
「それにしても、あちらは多いですね」
サクラさんのところと王家のところは列が出来上がっているくらいだ。
僕もソラとして行ったらこうなっていたかと思うと、シエラにしておいてよかった……。
「サクラ様はご懐妊が話題になっておりますから。皆さんお祝いしたいのでしょう」
まあそうだよね。
すると僕にノエルさんが耳打ちした。
「シエラさん、マグワイア公爵家にはご注意を」
幸先の悪そうな忠告に僕は何もないことを祈るのだった……。




