第105話 返礼
翌日。
聖女院にはシュライヒ家が揃って来ていた。
どうやらサクラさんのお祝いに行ったついでとのことだ。
客室には僕とシュライヒ家の皆さんとメルヴィナさん、そしてエルーちゃんがいる。
「初めまして、ソラ様専属メイドのエルーシアと申します」
「あらまあ、とても可愛らしいメイドさんだこと……!」
お義母さんはエルーちゃんを見てそう言った。
「まあ……!ソラ様とエルーシア様……なんと尊いお二方……!」
メルヴィナさんは相変わらず良く分からないことを言っていた。
「ソラ君の豊穣の祈りのおかげで、今年の茶葉にも段々と良い影響が出てきているみたいだ。本当にありがとう」
「いえ、ただもて余していた魔力を使っただけですから……」
「お礼として聖女院の皆さんにも飲んでいただけるようにお渡ししておきましたから」
「いつもおいしいお茶をありがとうございます」
「さて、そろそろ社交界の時期でね……。我々侯爵家も毎年夏期休暇の時期に聖国王城で行われるパーティーに参加する義務があってね……。シエラ君はどうしたいか聞いておかないとと思って」
「それは、参加しないとまずいやつですよね……?」
「一応、体調不良などで断ることはできるが……シエラ君自身の外聞が悪くなるかもしれない……」
僕のことについてのみ言ってくれるが、恐らくシュライヒ家全体としての外聞もあるだろうに……。
シュライヒ家の名前を借りている身として、僕だけが甘い蜜のみを吸い続けるのは気が引ける。
「……シエラとして参加させていただきます。ですが、実はソラ宛にも来ていたんですけど……」
「あ、ああ……そういうことね。聖女様宛に来ているのは恐らく……招待状じゃなかったかしら?」
「はい、そうです」
「私達に来ているのは召集、つまり半分強制みたいなもの。これは夫が侯爵で上から数えた方が早い立場だから、参加しないと下の爵位の者達に示しがつかないためなの。でも聖女様は世界の最高権力だから、いち国家が強制なんてしたら聖女院によって裁かれてしまうわ……。だから、それは断っても何も問題ないし、断りの意思表示をする必要すらないわ」
「ソラ様は、同じ学園生のソフィア様と仲がよろしいですから。だから参加の権利だけをお渡ししたのだと思います」
お義母さんの説明に、ルークさんが補足してくれた。
「そういうことなら、シエラとして参加いたします」
聖女祭のときもソラとシエラで入れ替わったけど、正直もうあんな綱渡りなことはしたくない……。
「ソラ君、あまりいい子になりすぎなくてもいいのよ?」
「いえ。というより、私が貰いすぎてしまっているので、こうして恩返し出来ることがとても嬉しいんです!」
僕の新しい家族として受け入れてくれて、こんなに幸せにして貰っているんだから、シュライヒ家の一員としての役割は果たしたい。
「やっぱり、いい子よ……。悪い人に誑かされないか、心配だわ……」
奏家以上に悪い人達なんてなかなかいない。
それを教えてくれたのもまた、この人達なのだから。




