閑話28 神隠し
【エレノア・フィストリア視点】
「ふう……」
頭脳だけは自信があったけど、やはり単純に知識が足りない。
学園で習っている内容だけでは、やはり足りないんだ。
こういうとき、ソラ様の頭脳を借りたいと思うことがある。
以前クラフトについて対談をしたのだが、クラフトアイテムの合成レシピの知識もそうだが、そのアイテムがこの世界のどこにあるか、そしてどの魔物が落とすか、どこの迷宮にあるのかまで瞬時に答えられていた。
まさにソラ様こそクラフト学の生き字引だ。
ボクも一度見聞きしたことは大体覚えているが、知らないことはまだまだ多い。
とはいえソラ様も忙しいから、彼女にばかり頼ってはいられない。
聖女院クラフト研究室のアンネ室長にその話をすると、聖女院の図書館へ入る権限を貰った。
学園では学ばない危ないアイテムも結構あるが、あそこの書物ではその知識まで知ることができる。
ボクはいくつか書籍を借り、寮に戻って読み耽っていた。
ぱたりと閉じてソラ様からもらったアイテム袋へしまったとき、やけに静けさを感じた。
それこそ、リリリリと蛍が鳴いているのが聴こえるくらいに。
そういえば今日はみんな出掛けているんだっけ。
朱雀寮は一年生が来てから賑やかになったが。
これほどに静かだと少し寂しく感じてしまうくらいだ。
ギィ……
ベッドに横になったボクが目を瞑ると、静かに窓が開く音がする。
「おいおい、ここは2階だぞ……」
音もなく窓から侵入してくること十数名。
その人影は皆真っ黒な装束に身を包んでいた。
彼女らはボクを囲い、そのままボクを押さえつけた。
「エレノア様、女王陛下および次期皇后陛下の命により連れ戻しに参りました」
「……」
馬鹿を言え。
ボクを逃がしてくれただけでなく、聖女学園に入れてくれ、さらには学費まで用意してくれた女王が、わざわざボクのことを連れ戻すわけないじゃないか。
……ついにボクのところに直接お迎えが来てしまった。
またあの暗いところで操り人形にされるのかと思うと、反吐が出てたまらない。
だが女王の権力が弱まりつつある今、ボク一人が抗ったところでいずれ誘拐されることになるのは明白だ。
そんな内輪のことで朱雀寮のみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
しかし、かつてボクの侍女であったあのシンシアが指揮を取る立場になるなんて、ボクですら分からないことは多いものだ。
「……シンシア、あなたも出世しましたね……」
「エレノア様には遠く及びませんよ」
我ながらこの口調は気色が悪いが、こうでもしておかないと、またあとで母上に告げ口されて何を言われるかわかったものじゃない。
「丁重にお連れしなさい」
言葉とは裏腹に力強く拘束されたボクは、黒ずくめの者達に運ばれて窓から飛び降りる。
「……」
ああ、もう少しクラフト学について学んでいたかったな……。
こうしてボクは、せっかく手に入れた学園生活と聖女院の内定を全て失うことになった。




