閑話27 救世主
【ソフィア・ツェン・ハインリヒ視点】
「いらっしゃい、ソフィア、涼花ちゃん」
夏休みとなっても仲の良い私とサクラ様は相も変わらずお茶会をしていました。
今日はたまたまプレゼントを渡しに見舞いに来ていた涼花さんも一緒に招かれていました。
専属侍女のカーラ様がサクラ様を座らせると、私がプレゼントに持ってきたノンカフェインの紅茶を入れてくださいます。
「こんな感じで、なにもさせてくれないのよ……。別に病人ではないのだけれど……」
「それだけ心配したということです。ソラ様がいらっしゃらなければ、どうなっていたことか……」
私も、サクラ様が目覚めてお告げをした時、どれほどソラ様に感謝したことか。
「ははは……。改めて、おめでとうございます」
「涼花ちゃんもお花、ありがと。ブルームさんにもいつもありがとうって伝えておいて」
「はい。父も喜ぶと思います」
「おめでとうございます。まあ毎日のようにお二人の睦言を横流しされていた身としては、少し遅いくらいな気がしていましたけどね……」
「ソフィアもありがとう。私も頑張っていたのだけどね……。相性はいいと思っていたのだけれど、アレンのが薄かったのかしら……?」
そういうことを平気な顔で言うサクラ様に私達は苦笑いするしかありません。
「そういう下の冗談は御茶会ではよしてください」
「なによ。そんなだからカーラは恋人ができないのよ」
「私は生涯をサクラ様と共にすると決めておりますので」
サクラ様が学生の頃から同い年の専属侍女として活躍されているカーラ様だからこそのお言葉でしょう。
これでもアレン様との婚約では一悶着あったらしく、アレン様とカーラ様は因縁の相手でもあります。
今でも「サクラ様を幸せにできなかったら許しませんよ」と言い張っているが、これでも大分憑き物が落ちたと感じるほどです。
「そろそろ社交界の時期か……」
「一応招待状は渡しましたが、今年も涼花さんは出られないのですか?」
「そのつもりです。ああいう堅苦しいのは苦手ですから……」
「あら残念。ソラちゃんは呼んだの?」
「呼んではいますが、来るかどうかは五分五分ですね。シュライヒ侯爵は参加の予定なので、シエラさんは来そうですが……」
「……」
急に思い詰めた表情をする涼花さん。
「どうかしましたか、涼花さん?」
「……いえ。シエラ君が少し心配で……」
「……確かに。シエラさんはまた虐められないかが心配ですね……」
「やっぱり、学園でもそうなのかしら……?」
「はい。学園長を打ち負かすほどの戦闘技術でおそらく学園最強のはずなのに……。本人はとてもか弱く見えるからでしょうか?」
それをいうなら、恐らくこの世界で最強のお方です。
サクラ様もアレン様も敵わないのだから。
「あの子には幸せになって欲しいのよね……」
「彼女の過去をご存知なのですか?」
「……ええ。少なくとも、あの子以上に悲惨な過去を持ってる子を私は知らないわ。少し虐められている今くらいでも、とても幸せに感じているくらいにはね……」
「そこまでなのですか……」
私もソラ様の過去は詳しくは知りません。
でも私の大事なサクラ様を助けていただいた恩を仇で返すようなことは絶対にしたくありません。
「涼花さん、シエラさんを守るためにも……出ていただけないでしょうか……?」
「……わかりました。ソフィア様の頼みなら聞くしかありませんね」
何事もないようにと祈りながら週明けに想いを馳せるのでした。




