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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第13章 天佑神助
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第103話 周回

 次の日。

 僕とエルーちゃんは山奥にある迷宮に入った。


 二人で来ていることもあり、夏場は暑いので今日はラフな男装をしていた。


「ここは暑いね……」


 炎属性の魔物が多くいるこの迷宮は本当に暑い。

 魔道具で涼しくしていても暑いのだから、相当だ。


 僕はシャツをぱたぱたと煽ると、エルーちゃんが顔を覆って隠した。


「ソ、ソラ様……どうしてブラをつけていらっしゃらないのですか!?」

「いや、僕が付けてたら変質者でしょうに……」

「そんなことないです!せ、せめてインナーは付けてくださらないと……み、見えてしまいます……」


「別に男なんだから気にしなくても……」


「ソラ様の性別はソラ様だから駄目なんですっ!」


 僕の性別、いつからソラになったの……?




「基本的には僕は手を出さないから」

「ほ、本当に私だけで攻略なんてできるのでしょうか……?」


 不安に駆られるエルーちゃん。

 だけど、以前渡した消費魔力半減の『漆黒のワンド』二本と魔力自動回復が付いた『精霊のネックレス』を装備している。


「その効率的な装備なら大丈夫だよ。それに、ティスから水の加護を貰ったからね。加護の説明はしたっけ?」

「ええと、確か魔法が使いやすくなると……」

「そ、そっか……」


 まあこの間は子供相手の説明だったからね……。


「きちんと説明すると、今のエルーちゃんは水の加護があるから水魔法に必要な魔力が半減、それに水魔法の威力が二倍になるよ」

「ええっ!?」

「水魔法なら両手ワンドと合わせて魔力消費が8分の1になるし、『精霊のネックレス』のおかげですぐに回復するから、中級魔法くらいなら打ちたい放題だよ」

「す、すごいですね……」




 僕の後押しに覚悟を決めたエルーちゃんは頷いた。


「わ、私もいつかソラ様の足を引っ張らないように、成長しないと……ですね!それに、私はついていくと約束しましたから……」


 律儀に守ってくれるエルーちゃんは優しい子だ。


「じゃあ僕も全力で答えなきゃね!」


「ソラ様、何を……」

「まずは()()()を考えて、これを渡しておくね」

「?」


 アイテムボックスけら『修練の指輪』を取り出し、以前聖女祭の時に渡した『護符の指輪』の反対側の指にはめる。


 指輪アイテムは片方にひとつずつしか着けられない。


「それをはめている間は経験値が多く貰えるから、これで迷宮攻略をしよう」


 そう言うとエルーちゃんはうつむいてしまった。


「どうかした?」

「い、いえ……」




「ブリザード・テンペスト!ブリザード・テンペスト!」


 フレイムオークの群れに中級魔法の吹雪の嵐を連発し氷漬けにしていくエルーちゃん。


 さっきまではあんなこと言ってたけど、ちょっと楽しそうだ。


「すごいです!全然魔力が減りません!」

「こっちとしても、涼しくて助かるよ」

「ではもっと撃ってソラ様を涼しくしてさしあげないと、ですね!」

「いや、撃ちすぎたら流石に寒くなるよ……」




 そうこう言っているうちにボス部屋にたどり着く。


「ボ、ボスも一人で倒すんですよね……?」

「大丈夫。大分レベルが上がっただろうから、そろそろ上級魔法が使えるはずだよ」


 意を決してボス部屋の扉を開けるエルーちゃん。


 この間のセイクラッド道中の迷宮よりは大分易しい迷宮だから、エルーちゃんが負ける心配はとくにしていない。


 ボス部屋の中央にいたのは、フレイマーオークキングという図体の大きな魔物だ。

 炎使い(フレイマー)の名の通り、身体中が炎でできたような見た目をしており、体に触れるだけで大火傷をしてしまう。


「グ……グオオオオォォォォ!!」


 オークキングが雄叫びをあげると、どこからかフレイムオークが十匹程やってきた。


「っ、いきますっ!大洪水(グレート・フラッド)!」


 上級魔法で水流の波をつくって全てを飲み込む。


大寒波(コールド・ウェーブ)!」


 そのまま反対の杖で波ごと凍らせる。


 かっちりと凍ってしまったフレイムオークは一撃だ。

 だが流石にフレイマーオークキングは凍らせたくらいでは死なない。


「グオオオオオオオオ!」


 雄叫びとともに噴煙が上がると、


水の池(ウォーター・ポンド)!」


 咄嗟に地面を水に変えてオークキングを落とすと、そのまま「氷の卵(フローズン・エッグ)」と唱え水を残して外側を氷で囲うようにした。


 個体で囲うより、液体で囲って反撃の炎の居場所を作らなくしする。

 そしてそれを覆うように凍らせることで正確に弱点を維持する。


 やはりエルーちゃんは魔法の使い方がとても上手い。


 フレイマーオークキングが『魔力のグミ』に変わると、エルーちゃんはふぅと息をついた。


「お疲れ様。流石だね」

「ありがとうございます。こちらは……?」

「『魔力のグミ』だね。食べると最大魔力が5だけ上がるよ。僕はもう使っても上がらないから……。さ、食べて」

「あ、ありがとうございます。いただきます」


 もぐもぐしているエルーちゃんが可愛らしい。


「ごくんっ……しかし、こんなに早く迷宮を攻略できるなんて……」

「まだこれからだよ」

「……へ?」


 迷宮の入り口へ戻る魔法陣に乗る。


「まだ午前中だからね。道中の魔物は湧くのに時間がかかるけど、ボスは入り直す度に湧くから。今度は僕も手伝うから、今日のうちに回れるだけ回ってエルーちゃんのレベルと魔力を上げられるだけ上げてしまおう」

「ひ、ひえぇ……」





 それから僕らは時間の許す限り同じ迷宮を回り続けた。

 途中からは効率のために騎馬戦のように、僕がエルーちゃんを背負って身体強化で走り、エルーちゃんは魔法を放つ係になった。


 魔力や体力がなくなってきたら、秘薬を飲んで貰う。


 キングオークを倒してグミを食べて貰う。


「も、もうお腹たぷたぷです……」


 なんかいろいろと大丈夫かな、その言葉……。




 最後には疲れて眠ってしまったエルーちゃん。

 流石にやりすぎたか……。


 女装に着替えてからギルドに帰って報告しようとしたとき、嫌な予感がした。


「ソラ様……」

「あ……」


 炎の迷宮を走り回り汗だくの僕達。

 そして眠るエルーちゃんを僕がお姫様抱っこしているこの状況は……。


「まさか、事後だなんて……!?」


 ……誤解は増すばかりであった。

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[良い点] 「ソラ様の性別はソラ様だから駄目なんですっ!」 おなかが痛くなるくらい笑いました... www...
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