第10話 参観
マーサさんの店を出た後、エルーちゃんに案内してもらいながら買い出しを手伝っていた。
「すみません。買い出しに付き合っていただいて……」
「いいのいいの。それに、荷物持ちには最適でしょ?」
アイテムボックスがあるんだから使わないと勿体無い。
運び屋聖女がいたっていいじゃない。
男だけど……。
「聖女さまを荷物持ちにするなんて、畏れ多すぎます……」
「気にしないの!それで、頼まれたのはこれで終わり?」
「はい!ですから、最後はソラ様の行きたい場所に行きませんか?」
気を遣ってくれたみたいだけど、僕、街には詳しくないんだよなぁ……
「そういえば、学園ってここから遠いの?」
「いえ、近いですよ。行ってみますか?」
「行っても入れないだろうけど、入る前に一度外くらいは見ておきたいと思って」
「ソラ様は聖女さまですから、入れると思いますよ?」
「それ、気を遣って入れてくれているだけじゃ……」
「いえ、聖女学園、ですから!」
そういえば、歴代聖女は皆関わってたんだっけ……。
しばらくエルーちゃんについていくと、赤いレンガ造りの西洋の学校のような者が見えてきた。
「ソラ様、ここが聖女学園です」
白く高い塀で囲われ、黒く大きな門が待ち構えている。しかし、その塀を越える高さでレンガでできた建物が見えている。圧巻だ。
「キミたち、ちょっとフードをとってもらってもいいか?」
門の両脇に佇んでいた衛兵のような服装の女性の片方にそう言われた。確かに不審者と疑われても仕方ない。
おとなしくフードをはずすと暫し固まる。流石に二度目だから慣れてきたけど、有名人になってしまったなぁと他人事のように思った。
「だ、大聖女さま!」
「ごめんなさい、ちょっと見たくて来てしまったの」
すぐ帰るつもりだという前に、
「失礼いたしました。さあ、中へ」
と言われてしまった。
「いいんですか?」
「当然です。学園長を呼んで案内させましょうか?」
えっ、流石に学園長と一緒に回るのは気まずい……。
「い、いえ。勝手に来ただけですから。少しだけ中を見させてもらいますね」
黒い扉の中に入ると、まるで赤レンガ倉庫のような長く立派な校舎が見える。
レンガの近くまで来たとき、一人の女の子がこちらに気づいた。
「あっ!だ、大聖女さま!!!」
女の子が大きな声でそう叫んだ途端、我よ我よと女の子が押し寄せてくるっ!?しまった、休み時間だったか!
「こんにちは、大聖女さま!」
「お会いできて嬉しいです!」
「握手してくださいっ!」
200人……いやそれ以上に囲われ、聖徳太子でも聞き取れない量の言葉が投げられる。
ちょっ、どこさわってんの!?
「ちょ、ちょっと……」
カーン、カーン
いいタイミングで予鈴が鳴ってくれたみたいだ。
「ほ、ほら、予鈴でしょう?」
「まだ時間あるも~ん」
「大聖女さまぁ~!」
「サインください!!」
「今度は真面目に勉強する貴方達を私に見せてくれる?」
優しくそう諭すように言うと、「またね~大聖女さま!」と言って皆教室に戻っていった。
「あ、嵐のようだった……」
「サクラ様が通われていたときも毎日下駄箱にラブレターが溢れていたそうですよ」
「お、女の子同士なのに……?」
未知の世界のお話に想像を駆り立て悶々としていると、小悪魔のような笑みでエルーちゃんはこう言った。
「女の子同士だから、ですよ?この世界での恋愛に性別は些細なことなんですから」
それからエルーちゃんに、かつて女性同士で結婚した聖女さまの話を聞かされ、僕はいっそう悶々とした。