閑話279 ソラ印
【奏天視点】
「キミ、働きすぎじゃないか?」
「そうですか?割といつも通りな気がしますけど……」
「どこがいつも通りだよ、午前に『そらいろ』の収録、それが終わって午後はライブ配信していたのだろう?」
「でも、『そらいろ』の収録はいつものことですし……むしろライブのためにダンスやお歌を練習してきた時の方が体力的な疲労は大きいですよ?」
この日はいつものように『そらいろ』の動画収録を終えた後、ライブ配信によるライブイベントがあった。
最近始めた『そらいろ』のオンラインライブイベントで、インフルエンサーのアヴリルさんとユニットを組んで、二人で歌いながらダンスを踊るというものだ。
前世の僕の活動を知る三聖女に前みたいに歌ってくれと懇願されて渋っていたところ、それを聞いていたアヴリルさんがなぜか乗り気になって一緒にやろうと言われてしまった。
僕が参加する必要があったのかは疑問だけれど、アイドル文化をこの世界に持ってこれたというのはひとつの実績になるかもしれない。
これも平和になったからこそできることだ。
「疲労っていうのは積み上がっていくものなんだよ。君は不死身かもしれないが、身体の負担がなくなったわけじゃないんだよ。こうしてボクに協力してくれるのは嬉しいけどね、少しはボクを見習って惰眠を貪った方がいいよ、キミは」
「まぁまぁ……三人目の天花が産まれてから、無限にやる気が出てくるんですよ。むしろ何かしていないと落ち着かないんです」
涼花さんが天花を産んだ時は皆で喜んだものだ。
リリエラさんも出産したし、葵お義母さんも無事子を授かったようで、周りにお祝い事が増えたからだろうか。
前世の日本人であれば都合のいいときだけ神頼みをするような人がほとんどだろうが、こっちでは良いことがあると神様に感謝し祈る風習があるらしく、現人神に近づきつつある僕も祈られると神力が溜まるようになった。
そんな溢れんばかりの神力を、ひたすら仕事へ――
◆◆◆◆◆
「けほっ、けほっ……」
「風邪ですね。過労です」
「だから言ったじゃないか!全くもう、キミってやつは!」
「すみません……」
「ただでさえキミは身体が弱いんだから、そこのところを理解して貰わないと困るんだよ!」
「まぁまぁ、エレノア様。ソラ様にはそう言って諭すよりも効果的なことがございますよ」
「?」
「ソラ様、風邪がお治りになるまで、子供とふれあうの禁止です」
「そ、そんな……!」
ボクのいきがいが……!
「当たり前です!子供は免疫が低いのですから、治るまで会わないでくださいね?」
「で、でも……子供達は会えなくて泣くんじゃ……」
「泣きますけれど、それくらいはなんとかするのが母親の仕事ですから。ソラ様は母乳が出るわけではないのですから、少しくらい休んでください」
むしろ子供と触れあうのは僕にとって癒しだったのに……!
でも、確かに父親は子育てには最悪必要がない。
どうにかして接点を作りたかった僕は、先ほどエルーちゃんが言ったことが引っ掛かって、脳内で何かを想像してしまった。
それは所謂、想像していたことがやがて自分の身体の構造を変え創造をするようなものだった。
「あっ……」
「嘘だろう、まさか……!?」
中に着ていたスポブラが湿ってきたのだ。
もはやなぜ着ているのかとかいうことは置いておいて、というかそれどころではない。
「本当に、出ちゃった……」
「なん、だと……?」
その身体が神に近づいているせいか、僕も想定していない人体改造ができるようになってしまっていたらしい。
「これで、念願の母乳飲ませ合いプレイが……!」
「エルーちゃん?」
いや、どうしてそこで最初に出てくる感想がそれなのよ。
普通子供に与えるとかそっちを先に考えるべきでしょ。
「だが、これでは本当にママが二人だな」
「そのうち母親のお株も奪われそうですね」
「ソラ君なら、そのうち子を産めるようになっても不思議ではないな……」
そんなわけないでしょ。
何がなんでも母親にさせようとしないでよ。
「ついに上からも下からもミルクが出るように……!」
「下のは元から出てたでしょ……」
「ソ……ソラ君が、進んで下ネタを言うなんて……!!」
しまった、ツッコミを入れたら余計なことを……。
その後、ちょうどエレノアさんが居たから成分を調べて乳児に問題ないというかただの母乳であることはすぐに確認できたのだが、実際に子供達がその母乳にありつくまでに、何故か妻達が興味本位で飲みに来て大変なことになった。
そして「ソラ印の母乳はとても甘くて美味しい」という噂が妻を通して聖女院内で何故か広まりまくり、僕はしばらくの間聖女院で働く人たちに変な目で見られるようになった。




