第101話 人魚
がばっと抱きつく人魚に、僕は言い訳を話す。
「久しぶり、いやこっちでははじめましてかなティス……。水回りで困ることがあんまりないからさ……」
「もう、アオイもサクラもソラもみんな召喚してくれないんだもの……。どうせ私がお喋りでめんどくさいから、召喚してくれないんでしょう……?」
「自覚あったんだ……」
「ち、違うのよ!召喚してくれないから、いつも話し相手がいなくて……。ここの眷属達はみんな聞くことはできても、喋れないから……」
開口一番に嫌味を言ってきたのはそういうことか……。
「ごめんねティス……」
およよと泣きつくティスに、お詫びに撫でると少し照れていた。
「い、いいわよ……。最近は呼び出されることも増えたから」
「えっ?誰が……?」
「あ、しまった……!な、なんでもないのよなんでも!」
なんだろう、気になる……。
「あ、あの……もしかして聖獣テティス様でございますか?」
恐る恐る聞くエルーちゃん。
「あら?連れがいるのね。お名前は?」
「ああ、紹介がまだだったね……。水の聖獣テティス。こっちは私のメイドのエルーシアちゃん」
「よろしくね、メイドちゃん」
「お、お会いできて光栄です、テティス様」
握手を交わす二人。
「で、どうして召喚せずにわざわざこちらに来たの?」
聖女のみが召喚できる聖獣は、普段はこの世界の別の場所で暮らしており、このようにその縄張りに行けば会うことができる。
闇の聖獣のリルも普段は山奥にもふもふの群れを組んで暮らしている。
「冒険者ギルドからここの調査依頼が来てたんだよ。もしかして聖女のみんなが召喚しなさすぎて人々にティスのことを忘れられてたんじゃ……」
「何それ、ひどいわ!!もっと、ソラ達が私の存在を広めてくれないと!」
ぷんすこと怒るティスはぽかぽかと僕を叩いてくる。
「いたい、いたいって……」
「じゃあ、確認に来ただけ?もう帰っちゃうの……?」
そんな寂しそうな表情をしないでほしい。
「いや、出来れば加護をくれないかなって」
「ソラはエリス様のご加護があるじゃない。それにソラが水の加護貰ったってしょうがないでしょう?」
「いや、エルーちゃんにだよ。エルーちゃんは水属性の魔法使いだからね」
「わ、私ですかっ!?」
「あら?私にお喋り相手をくれるの?」
加護を与えた者は意志疎通ができるらしい。
魔王襲来のときにエリス様の声が僕に聞こえてきたのは、多分その力を使ったのだろう。
まあエリス様の加護の場合は神様だから、天庭に行ける能力とか、最上級魔法を使えるようにしてくれたりと他にも得点が盛りだくさんなんだけどね。
「あまりお喋りしすぎていると嫌われちゃうよ?」
「そ、そんなこと……」
「……今のでソラが私のことどう思っているかがわかった気がするわ……」
……ゲームでもうるさかったからね……。
「どうかな、二人とも?」
「わたしは、いただけるのでしたらありがたく……」
「私もそうやすやすと渡すわけには……そうだわ!」
何かを思い付いたティス。
『ブルーモード』で全身を青い見た目に切り替え、コアが青く変わる。
「ちょっと、あなたの記憶を読ませて貰うわよ」
「は、はい……」
ティスがエルーちゃんに手をかざすと、二人とも目をつむる。
「……あら?そうだったのね、あなた、ソラのこと……」
な、何……?
というか勝手に聞かない方が良かったかな……?
「な、この子っ!水魔法の使い方……」
どうやらエルーちゃんの才能に気づいたようだ。
「ティス、どう?」
「こんな逸材、なんで早く教えないのよ!」
そんなこと言われても……。
というか結構早く教えた方だと思うけど……。
「もういいわよ、あなた、名前はエルーと言ったかしら?」
「は、はいっ!」
「ちょっと血を貰うわよ」
そう言うとティスの歯が尖り、エルーちゃんの首筋に噛みついた。
「んんっ……」
……なんだか見ていちゃいけないような感じがした。
ティスは歯形から漏れた血を掬い、自らの額にある青く変わったコアに付ける。
コアは青く光輝き、その光線がエルーちゃんの手を照らすと、手のひらに水滴のマークを焼き付けた。
「もういいわよ」
その言葉に、倒れこむエルーちゃん。
「おっと……。ティス、やりすぎだよ!こんな深く傷付けなくても良かったでしょ?」
僕は慌ててヒールで治す。
「ソラがいるから平気でしょ?それに、エルーの弱点も知れたしいいじゃない」
首筋が弱いなんて、知ったところでどこで使えっていうんだよ……。
「たまには呼んでよね!」
ティスと別れ、力の抜けてしまったエルーちゃんを抱き抱えて帰る。
帰ってきた僕がエルーちゃんをお姫様抱っこしていたところを見たミスティさん。
「やっぱりソラ様は、女たらし……」
ご、誤解だよ……。




