閑話274 つがい
【教皇龍視点】
学園から生徒達が帰ってくると、後宮は姦しくなる。
働きアリ理論ではないが、十数人も居れば必ず一人以上は休みであり、特に主が居る時などは沢山居ることが多い。
だが主の妻達は休みつつもしっかりと働いており、まともに働いていないのは我くらいのものだ。
我もそれに感化されてか、たまに涼花の代わりに親衛隊の訓練に遊びに行ってやっている程だ。
「あ、動きました!」
「あぁ~!赤子の音ォ~!!」
東子がエルーのお腹の中の音を確認すると、奇声を放つ。
「東子ちゃん、恥ずかしいから……。そもそもそのネタ、どこで仕入れてきたの?」
「真桜様に決まっておりますわ」
「誇って言うことじゃないよ……」
リンは「私の東子ちゃんが、また毒されちゃった」と呆れたように言う。
「楽しみだね」
「そうですね。涼花様も、ご懐妊おめでとうございます!もうこの子に妹ができるなんて、嬉しいです」
主はもて余す魔力を世界のために働く妻達が、また自分のために子を産む妻達が、せめて自分の居るところでは安らかに過ごせるようにと自動回復魔法を常に部屋に展開している。
中でも三人は自分達の世界を作っていた。
お腹の心配をして甲斐甲斐しく世話をする主はこれから増える家族と番である我々を同じように大切にしている証だった。
「ふふ、これからどんどん増えていくことだろう。ただあまり激しい運動ができないのが辛いところだな……。産後はリハビリをしないと……」
「もう産後のこと考えているなんて、気が早すぎじゃ……」
「そのストイックさが涼花様の魅力ですから♪」
二人の妊婦は余裕があるように感じる。
「しかし、エルーちゃんは妊活して半月だし、涼花さんに至っては妊活開始したその日に、なんて……」
「今のところ排卵したタイミングで必ず受精してません……?」
「ソラ様の種、多すぎなのか強すぎなのか……」
「どくどく、ねばねば、百発百中……」
「ララはもう少し言葉を選べ……」
その場にいた妻仲間全員が、その種の強さを想像し、ごくりと唾を飲んでいた。
我もどうしてもその事を想像してしまい、思わず足を交差して股を押さえ付けてしまう。
そう、次は我の番だから。
◆◆◆◆◆
「――ウララ、ツガイってのは、いいモンなのか?」
「わ、私……!?わ、私にはその……居たこと無いから、わかんないよ……」
「お前は万年恋人どころか、友達すらいないからな」
「い、いるもん……!友達いるもん……」
「例えば?」
「え、ええと……エリちゃんでしょ?龍ちゃんでしょ?あと、あとは……不知火玲ちゃんと、メイちゃんと、あとあと、ヴィヴィさんは……通訳者かメイちゃんがいればなんとか……」
「主と我以外だと、聖女と専属メイドしかいないではないか……。それに通訳者を介する時点で、それは友達と言えるのか?」
英語は普通に出来るのに、対人の会話の方ができなくて後輩の聖女に仲介を頼むなどどうかしている。
それに、最近ではヴィヴィもレイの影響で日本語を学ぼうとしているから、余計に必要ないはずなのだが。
「いるもん、前世の無限倍いるんだもん……。当社比無限倍だもん……!私は量より質が誇りなんだから……」
「それは前世でいなかっただけだろう。誇りというよりホコリだな。量より質と言うのなら、お前はレイに何をしてやったんだ?」
「ひ、ひどいっ……!じ、事実陳列罪は犯罪なんだよっ……!」
そんな罪はない。
一縷の望みとして狙ってるやつもいるだろうに、友達とすら思われていないなんて可哀想な親衛隊達だ。
「わ、私より龍ちゃんだって、友達いないじゃない!」
「我はいい。龍族を統治している教皇なのだから、我が首を縦に振れば、龍達は友になる」
「それは真の友達じゃないよ……」
「我のことはいい。命は永遠にあるし、食べなくても生きていけるのだから、他人に頼らずとも生活できる。だがお前は違うだろう?」
自給自足ができないのであれば、他人と話すべきであろう。
専属メイドのメイリスですら最低限の会話しかさせて貰えなかったというのに、レイとは普通に会話できているのだから驚きだ。
「後輩聖女にコミュニケーションを一任し、まともに話せるのは我くらいで、本当にそれでいいと思ってるのか?」
「龍ちゃんは……その、龍だから大丈夫なんだもん……」
彼女も前世で人間からひどい目に遭ったからか、人間の形をしている相手には極度に怯えてしまうようになったらしい。
その代わりに地下室に篭りきりだったせいで魔法の研究家になってしまい、気が付くと彼女は歴代最強の魔法使いとして世界の皆がその技術の原理を教えを乞いに来る程になってしまった。
コミュニケーション強者である後輩聖女のレイがウララから原理を聞き出し教鞭を執らなければ、ウララの技術が世に出ることもなかっただろう。
「じゃあ我が人の姿になってみ……」
「や、やめてっ……!そんなことしたら今っっ!ここでっっっ!死ぬからねっっっっ!!」
唐突な自殺宣言をするが、お前傷付くのすら苦手だっただろうに。
傷付きたくないから魔法を研究するというのは努力の方向音痴に他ならない。
「はぁ……。聞く相手を間違えたか」
「で、でも、ヴィヴィさんの結婚式は素敵だったなぁ……」
「なんだ、憧れはあるのか?」
「そ、それはあるよ!好きなジャンルは恋愛小説なんだから……!素敵な恋をすれば毎日その人のことを考えて、そのためなら命を投げ出せるくらいになれるんだよ?」
「それならお前が今一番必要なのは恋の相手探しだな」
「なっ、そ、そんなハードル高いこといきなりさせるなんて、龍ちゃんのへ、変態っ!わ、私だって、対人恐怖症がなければ人並みに素敵な恋愛をしてみたいんだからっ!」
「こんな時ばかり饒舌になりやがって、完全に拗らせているだけではないか……」
「あ、憧れるのは、自由でしょ……!」
◆◆◆◆◆
「デートって言うから付いてきたけれど、どこへいくつもり?せめて行き先くらい教えてよ」
「我の巣穴だ」
「こ、これが正真正銘の……龍の道……!」
巣穴に到着すると、龍達が出迎えてくれる。
奴等は主の魔力をきちんと察知し、まるでメイドのように道を空けてくる。
「教皇龍ちゃんって、普段召喚されないときって巣穴で生活してるの……?」
「普段は空だが、子作りの時に巣を作る。龍は自分の巣穴にツガイを連れ込み、子供ができるまでずっと交尾を行うのだ。マオ風に言うのであれば、『孕ませないと出られない巣穴』だな」
「絶対真桜ちゃんの差し金でしょ……」
かつての友が言っていたのは単なる戯れ言かと思ったが、今ならあいつが言いたかったこともわかるような気がする。
「というか巣は藁だし、ほとんど外でしてるのと変わらないじゃんか……!」
「問題ない。ここに人は来ないからな」
「いや、人はいなくても龍が沢山居るでしょうが、んむっ……!」
「主、今夜は帰さないからな」
「それ、本来私の台詞でしょ……?あっ、羽触っちゃやぁ……!」
反応が可愛らしくて、つい尻尾と手と舌で主を堪能してしまう。
きっとかつての親友も蘇ったら、主のことを好きになるのかもしれないな。




