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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話272 最高潮

【奏天視点】

 足をピンと伸ばして快感に耐える姿は汗も相まってまるで極限まで磨かれたスポーツを見ているかのように美しかった。

 いつも近くで見ていたはずの光景が、客観的に見るだけでこんなに変わるのか。

 いやそれとも、今の涼花さんがそれだけ扇情的に見えてしまっているのか。


 しかし、僕が知りたかったのはそのどちらなのかではなく、僕が部屋に入っても涼花さんが()()()()()その……していたことだった。

 あれだけ寝ているときでも常に周囲に気を配っている涼花さんが、僕の存在に気付かないわけがない。

 それだというのに、事を終えた後も彼女は一向に僕の姿を目に収めなかった。


 そしてその理由が明らかとなったのは、横に回って耳元を見たときだった。


「あ、あれは……!?」


 彼女はワイヤレスイヤホンを耳につけていたのだ。

 そしてさらに端末で何かを見ていた。

 そう、それこそこの間僕が撮った「奏天のサキュバス妹シチュエーションボイス」なる邪悪の化身のような呪物の塊。

 いや、僕のASMR作品だった。


「っ……!!」


 妻に聞かせるという公開処刑。

 あまりの恥ずかしさに死にたくなったものの、それ以上にあの涼花さんが僕の音声を聞いて独りでしていたという事実の方に僕の熱が持っていかれていた。

 その熱はやがて堪えきれなくなり、僕のスカートはすごいことになっていた。

 だが、それどころではなかった。

 僕はベッドの横からなるべく傷つけないようにそっと彼女の頬に触れた。


「ソ、ソラちゃん……!?」




 ◆◆◆◆◆




「幻滅……したかい?」

「えっ……」

「こんなことをする女だとは思わなかっただろう?」

「でも、エルーちゃんだって毎日してたよ?」


 なんなら僕とするようになってからも独りでしてたし。

 でもそれは僕とのえっちに満足していないわけではなく、エルーちゃんのひとつのルーティーンなのだ。


「いや、エルー君は可愛いからいいんだ」

「涼花さんだって可愛いよ!」

「そんなはずは……私は、君の王子で……」

「可愛くて格好いい、それが共存しているから、僕はこんなになっちゃったんだよ?」

「っ……!?」


 僕は下着姿の涼花さんをベッドに押し倒す。


「言いづらかったら言わなくてもいいんだけど、どうして独りでしていたの?」

「それは……」


 エルーちゃんに言われたのは、もっと涼花さんと話をしろということ。

 言われるのを待っているだけじゃ駄目なんだよね。


「待っているつもりだったんだ」

「待っている……?」

「ああ。同僚の妻達は私の子作りの順番待ちを気にしているだろうが、そのせいで君が無理やり私と子を作ろうとはして欲しくなかったんだ。君は私が望めば自分の意思とは関係なく尽くしてくれるだろう?」

「それは、そうだけど……」


 何度も死にかけた僕だけれど、それを助けてくれたのは涼花さんとエルーちゃんだ。

 今沢山の幸せを得られているのも、こうして自分の子ができたのも、彼女が助けてくれたからだ。


「私はそれが嫌だったんだ。だから君が本心で望むまでは待つつもりだった。だが、私が待っている間に、君が私の心を掴んでしまった。掴みきってしまったんだ……」


 どうやら天使達全員で葵お義母さんを生き返らせたことで、愛おしさが爆発してしまったらしい。


「夜の帳の空のような美しい瞳に艶やかな闇夜の滝のようなその髪だけでなく、その内側の明るさや温かさに私は目が離せないでいる。君が欲しい。君との子供が欲しい。もう我慢できなくなってしまったんだ……。どうか私の願いを叶えて欲しい」


 こんな完璧なプロポーションの女性から、しかも僕の命を救ってくれた大恩ある人に一方的に思われて、子供をせがまれることなんて人生でそうあっていいことではない。

 いつも僕がその気にならないとしない紳士的な人が、余裕のない姿を見せてくるのは、もうズルだ。

 そのギャップだけでもキュンキュンと胸がどんどん締め付けられていく。


「私もね、涼花さんが望むまで子供は作らないつもりだったの」

「そうか、私が言えば済む話だったんだな」


 どうやら僕たちはお互いがお互いの意見を待つだけのデッドロック状態になってしまっていたらしい。

 エルーちゃんが言うように、話し合いが必要だったのは本当だった。

 でも僕の話はエルーちゃんにしていなかったはずなのに、どうして分かったんだろうか?

 まぁ今はそれも後回しだ。


「違うの。私もね、妻の皆と子供を作りたい。家庭を作りたいのは本当なの。でも、私にはもうひとつの懸念があったの」

「やはりそうか。私を……大天使にする気なのだろう?」


 やっぱり、気付いていたんだ。

 エリス様からの褒賞の件、僕の分をまだ消化できていなかった。

 僕に考えられるのは、大天使という永遠の命を涼花さんに渡すことだった。


「好きな人に置いていかれちゃうのは、やっぱり寂しいの。でも、これは私のわがまま。だから涼花さんがどうしたいかで答えて欲しい」


 子孫を残すだけでは満足できない、これは僕のエゴだ。

 別にすぐに使うものでもないけれど、まだ大天使ではない妻の中でもし一人を選ぶのなら、それは涼花さんだった。


「君が望んでくれるのなら……というより母上も長寿になってしまったからな。君と共に生きれるのなら、それに勝るものはない」

「嬉しい……」


 挨拶を交わすように口づけをする。


 ずっと一緒に生きることは必ずしも幸せなことではない。

 適度に生きて適度なところで死ねた方がいいと考える人も多いだろう。

 そんな中で、涼花さんは共に生きてくれる道を選んでくれた。


「それでね、本題の質問はここからなんだけど……初めての子は涼花さんが人のときにするか、大天使になってからにするか、どっちがいい?」

「なるほど、本当に悩んでいたのはそちらか」


 人種族の子を望むのならいまここでしても問題ないけれど、長寿を望むのならお互いが大天使になってからにしたほうがいい。

 もう既にすごいことになってしまっているけれど、実際に産むのは涼花さんなのだから、彼女の望むようにしたい。

 もし天使の子を望むのなら、僕はただ我慢をするだけの話だ。


「涼花さんが決めていいよ」

「今にも我慢できなくて押し付けているのに?」

「私が我慢強いのは、涼花さんも知っているでしょう?」

「そうだね。我慢強すぎて、我慢し過ぎていないか杞憂してしまうくらいだ」


 「私なら自殺している」とまで評価された前世のことを言っているのだろうか?


「そうだね。一人目は、人種族の子がいいな」

「それは、涼花さんが我慢できないからでは?」

「……言わせないでくれ、恥ずかしい」


 ああ、涼花さんはこんなにも可愛くて、美しかったのか。


「そうだ。これを着てほしい」


 僕はタキシードを着て、涼花さんにはウェディングドレスをアイテムボックスから直接着せる。

 結婚式でお互いに着たあの時の逆をしようと考えたのだ。


「今度は()が花婿で……」

「私が花嫁か。悪くない」


 膨張が最高潮になったその時、どこからか念話が聞こえてきた。


<ね、ねぇ……「リョウカが今日妊娠する」って急に出てきたのだけど、もしかしてもうしちゃった……?>

「「!?」」


 それは、少し幸せな未来予知。


<これからするんです。あっ、次はエリス様の番ですからね?>

<……ギュンッ!!!!>


 また変な断末魔が聞こえて切れた。


「……聞こえた?」

「ああ。今日だけはあなたの乙女で居させてほしい」


 そう言いながらも、彼女はもう我慢できないようにそのむちむちな肌を擦り合わせてくる。


「ふふっ。それ、台詞以外は私を攻めているようにしか聞こえないよ?」

「いいじゃないか、私達らしくて」


 騎士のように格好よくて美しい王子様と、女と間違えられる姫な僕。

 果たしてどんな子になるんだろうか。


「僕の子を産んで、涼花さん」

「っ……!さっきまで私が何を聞いていたか、分かっていてそんなことを言うのだな」

「今日は涼花さんを攻める日だからね」

「分かったよ。……私のすべてを、貰ってほしい」


 そんなことを考えながら、僕は最高の日を満喫した。

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