閑話269 親馬鹿
【ブルーム視点】
花のお世話をしながら不器用に鼻歌を歌っていると、常連のご老婦が声をかけてくださいました。
「ふふ、ブルーム様、ご機嫌ですね」
「これはこれは、お恥ずかしい……」
他人に指摘されると、いい歳をして露骨にはしゃいでいるのが浮き彫りになっているようで、恥ずかしい限りでございます。
「まぁまぁ、私だって息子の結婚式はそれはそれはもう嬉しかったものですわ」
「そうそう、子供の一生に一度のお祝いなんだから、はしゃげばいいのさ!通りの向かいの牛肉屋さんのところなんかね、嫁さんの親父さんが自慢して回るもんだから、通りにいる人はみ~~んな知っとるでなぁ!」
認知されている度合いで言えば、涼花ほど結婚相手が知られた人はいないのでしょう。
未だに殿方と言っていいのか迷いますが、彼女は本当に素敵な殿方を見つけたものです。
愛娘の結婚式は、親にとって自分の結婚式よりも人生の一大イベントかもしれません。
「父上、準備できたかい?」
「ああ。素敵なタキシードだね。あの時の私よりよく似合っているよ」
「ありがとう、父上」
「だが、欲を言えば少しはウェディングドレス姿も見たかった……」
涼花は中等部の頃から背が高く、女性からも言い寄られているとは聞いていましたが、流石に結婚式にタキシードを着るとは思いませんでした。
それも双方の合意の上でだそうですが、ソラ様がウェディングドレスですので自然な形なのかもしれません。
対外的には同性婚でございますから……。
「実はエリス様が終わった夜の披露宴では、ウェディングドレスを着る予定なんだ」
「それは楽しみが一つ増えた」
葵のウェディングドレス姿はもう20年以上も前のことですが、今でも鮮明に覚えています。
当時彼女に見合う男になるべくから回っており、恥ずかしがりながらもまっすぐ葵を見つめていたことを昨日のことのように思い出すのです。
そして涼花もまた、同じように私の手を引いてくるのです。
「ほら、ソラちゃんが待ってる。行こう、父上!」
「じゃあ、幸せになってくるからね」
素敵な言い回しに愛しさと寂しさという二つの感情を感じながら、彼女は私の手を離れていきました。
今日くらいは、親馬鹿になってもいいかもしれません。
私の娘は、世界一愛らしく、そして可憐だ。
事前にエルーシア様の結婚式があったため、同じようにエリス様が進行なされるかと思っていたところ、その進行を止めるようにそれは突如起こったのです。
それは真っ白な羽は一際天使のような美しさを放つ、私の黒髪の天使……。
「あ、葵……っ!」
「ブルーム、アンタは少し老けたかい……?ほら、泣くんじゃないよ二人して!今日はハレの日だろう?」
「うっ、くっ……葵ぃっ……!!」
女神様が授けてくださった奇跡を目の前に、私はもう泣き崩れることしかできませんでした。
「おかえりなさいっ、母上……!」
「おかえり、葵……」
「ああ、ただいま!」




