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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話268 八年間

【橘涼花視点】

 最近、ソラちゃんがよそよそしい。


 仲直りに睦言までしたというのに、最近少し素っ気ない気がする。

 もしかしてあの日、不和を取り戻すように何度も何度も求めてしまったのが気に障ったのだろうか?


 だがそれはソラちゃんが可愛すぎるのがいけない。

 あの猫耳尻尾の子猫ちゃんが、私の心をつかんで離さない。

 しかも弱点の耳や尻尾は機能しているらしく、そこを重点的に責めると「なぁん」と鳴くのだ。

 これは犯罪的可愛さだ。

 聖女でなければ、絶対に何かしらの法に触れていたことだろう……。

 あのような愛玩動物があってたまるか。


 ……いけないいけない。

 目下の議題はソラちゃんの満天の星ほどある可愛さではなく、よそよそしい件についてだ。

 妻たちに聞いても知らないと言うし、隊員達は皆口をつぐむ。


「それ、隊長は気づかないふりして差し上げた方がいいと思いますよ?」


 何だろうか、この歯にものが挟まったような物言いは。

 もしかして、男の子の生理現象などだろうか?

 だが、男の子の生理現象など朝のアレくらいしか知識はないのだが……。

 溜め込み過ぎると体に悪いことは知っているが、あれだけ妻がいて溜め込んでいるはずがないので、その線は薄いだろう。


 明日は結婚式だ、考えていても仕方ない。




 そう悶々としていた私に答えがやって来たのは翌日の昼過ぎだった。


『――神法・聖者転生――』


 エリス様は私のために神饌(しんせん)を私に授けてくださったのだ。


「涼花……大きくなったね」

「は……母上っ……!!」


 父上と顔を見合わせるも、呆けていた彼を置いて、私は一人で抱き締めに行ってしまった。


「アタシの若い頃に似てきたね……いや、良いオンナになったよ」

「ぐすっ……」


 この人のようになりたかった。


 この人のように格好よくありたかった。


 この人のように素敵な伴侶を見つけたかった。


 この目で見ることが叶わなくなってから、私が追い求めてきた『憧れ』の姿だった。


 あの時から何一つ変わっていない容姿に、懐かしささえ感じる声。

 私を抱き締めるその力の強さや温かさも含め、その全てに私の身体が喜びを得るように震えていた。


 ソラちゃんに会うまで、私はあの時から人前で泣くことを封印してきた。

 そうやって自分は強い女だと、母上の血筋なんだと、言い聞かせておかないと、いつか再び母上の仇である魔王と対峙してもまたろくに動けず大切な人達を見殺しにしてしまうかもしれなかったから。


 その成約はソラちゃんに会ったことで破られたが、しかしまだその原因であった私の心は、当時の子供の頃からなにも変わっていなかった。

 八年前に止まっていた時間が、やっと動き出した気がした。


「おかえりなさいっ、母上……!」

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