第994話 猫耳
「涼花様からは決して仰いませんから私が申し上げますが、アビス様の件、説得させられたのは勅命によるものでした」
「えっ……」
言わされてたの……?
「じゃあエルーちゃん達悪くないじゃん!」
「いえ、ですがララ様の件は勅命とは関係ございませんので、どのみち私達のせいです」
まぁ確かにアビスさんには寿命がないから、僕の懸念はないようなものだけどさ。
あんの女神様……出会ったときもエルーちゃんにろくでもないことして、まだ反省してなかったのか。
「誤解していただきたくないのですが、エリス様も頼まれたお立場なのです……!」
「……ああ、アビスさんがエリス様に頼んだってこと?」
「はい」
僕たち邪神討伐部隊に贈られた「女神様が一回だけなんでもしてくれる」券。
その券をアビスさんは僕とくっつくために使ったらしい。
「でもそれって、本来エリス様本人が頼まれて僕に説得すべきことを他人に代わりに無理矢理やらせたってことでしょう?」
うーん、やはりエリス様が悪いよね。
「というか結婚式も近いのに、あの女神は何してるんだ……?」
「わ、私も存じません」
シルヴィもそうで、あれからめっきり見なくなった。
「涼花さんは何にも悪くないんだから、早く謝らなくちゃ!」
いない人をとやかく考えていても仕方ない。
ララ王女のことを「据え膳」と言ってごり押してきたエルーちゃんはともかく、涼花さんはララちゃんのことをとくに薦めてはいない。
ただエリス様に命令されただけ。
「涼花さん!」
涼花さんの部屋に行くと、ぬいぐるみさん達に囲まれたベッドに涼花さんはいた。
僕はその涼花さんの手を取って謝った。
「ごめんなさい……僕が悪かったから……許して……!」
「?」
「涼花さんは何も悪くなかったんでしょう?」
「ああ、エルー君から聞いたのか……。私も言いすぎてしまった。すまなかった」
「ううん……」
まだ落ち込んでいるみたいだ。
どうすればちゃんと仲直りできるかな?
「ソラ様、昨日の格好をすればよろしいのでは?」
「昨日の格好?」
「あっ……」
昨日の夜、あの後エルーちゃんに披露した獣人の姿。
前回は狼だったが、今回は猫獣人だ。
「その、ごめんにゃさい……」
「……!?!?!?」
ぴょこりと頭から猫耳を生やし、尻尾で手を触ると、握り返してくる。
「ひゃん……!ゆ、許してにゃん……」
「っ……なんと、甘美な猫ちゃんだ……」
「涼花様、据え膳ですよっ!」
それ、エルーちゃんの中で流行ってるの……?
「では、ご相伴に預からせてもらおうかな」
「優しくしてにゃん……?」
その後、朝っぱらから部屋を揺らし過ぎたせいで他の妻達に気付かれ、にゃんにゃんパラダイスになったのはまた別の話――。




