第993話 満杯
「エルーちゃん!」
「しーっ!」
「あっ……」
夕刻に近づく中、後宮に戻りエルーちゃんの個室に入るとすやすやと寝息が聞こえてきた。
隣には東子ちゃんと凛ちゃんが居た。
「天先輩、おかえりなさい」
「おかえりなさいませ、ソラ様」
「凛ちゃん、東子ちゃん、ただいま。治してくれたの?」
「うん。でも熱は治せなかったからそのまま寝てもらってる。あまりにも酷かったんだから。先輩のせいですよ?」
「ごめんね。もう仲直りするから」
「絶対ですよ……!後宮も暗い空気になっていたのですから……」
意固地になって三日も距離を取るんじゃなかった。
二人は指切りげんまんをするように僕にキスをしてから部屋を後にした。
僕はエルーちゃんの頭に乗ったタオルを水魔法で冷やしながら温めるためにベッドに潜って抱き締める。
ウィルスは取り除いたからあとは熱を治すだけだ。
「んっ、そあさま……ごめ……なさ……」
「ごめんね、エルーちゃん」
ちょっと細くなってる、食事が取れなかったのだろうか。
夢で泣いているのか、涙が垂れてきた。
せめて夢の中では幸せであってほしいと願い、僕は抱き締めて眠りについた。
「ん……」
「ソラ様……おはようございます」
「起きた……?おはよう」
「あの、申し訳ございませんでした……」
「僕もごめんね。ちょっと言いすぎた」
「よかった……です……もう、ぐすっ、ずっと嫌われたままなのかと……」
「そんなわけないって。夫婦なんだもん、こうやってぶつかることはこれから幾度となく起きるよ。そうやっていくうちにお互いを知っていくんだから」
ぶつかることを恐れては、真に仲良くはなれない。
だからお互いに思っていたことをぶつけ合うことにした。
「エルーちゃんは僕が寂しくないように大切な存在を増やしてくれた。でも、僕のコップはもう満杯だったんだ。多すぎてもこぼれてしまうだけ。それにね、今度は大切な妻たちの死が少し怖くなったんだ。エルーちゃんはもしかしたらもう覚悟できているかもしれないけど、僕は妻が先立たれて僕たち天使しか残らなくなった時に心が耐えられる気がしなかったんだ」
「幾度も世界をお救いになられたのですから、私はもうただ幸せに暮らしてくださればそれで十分なんです。お子が欲しいのだって私の我が儘なのですから、ソラ様はただ私達にお子を残してくださればそれでよろしいのです」
「そんな無責任なことしたくないし、僕だって子供は大好きなんだからね?」
「ふふ、それに『私達天使しか残らない』と仰いましたが、将来は私達の子供がたくさんいることになるのですから……」
「それ、誘ってるの?」
「仲直りのキスがあるなら、仲直りのえっちがあってもよろしいのでは御座いませんか……?」
流石はえっち魔人……。




