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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話267 不幸せ

【ルージュ・テーラー視点】

「ノエル様もスカーレット様もお疲れ様です。ララ様のお相手は大変でしたでしょう……」

「本当に。私達に話して何になるのよ?とは思ったわ……」

「公爵家は王家の相談窓口のようなものですからね。ルージュちゃんもそのうち分かりますよ」


 ノエル様は次期公爵として表情を崩さずものの、スカーレット様は愚痴を溢す。

 まるでノエル様の代わりにスカーレット様が怒っているかのよう。


「ルージュ。あなた先ほど『お義姉様方』と、言ったわね?」

「ええ。そうなれたら嬉しいと思っておりますわ」

「私の(レオルク)を誑かすつもり?」


 ライマン公爵家に令息は一人だけ。


「そのようなつもりはございませんわ。ただもしそうなる未来があろうとなかろうと、御二人とは仲良くさせていただきたいと思っております」


 私も手ぶらで帰ることになっても、もう問題ない。


「あなたは私とレオルクの境遇は知っているかしら?」

「エドワーズ家はお取り潰しとなり、そのご子息とご令嬢はライマン公爵が養子として迎えることになった。レオルク様は一番私と似た境遇であらせられます」


 養子として迎えられ、必要以上の地位を与えられてしまった可哀想な子供。


「貴女に何が分かるというの……?温室でぬくぬくと育ったあなたに……!婚約者に見捨てられるような貴女に、私の愛する弟を託せるわけないでしょう!!」


 確かに家を取り潰されて養子になったレオルク様と、うちとでは境遇が違う。


 どのみち婚約などというものに、今はそこまで興味もない。

 それを言えば「令嬢として不能」などと言われるかもしれないが、どうせ私の令嬢としての価値は地に落ちている。


 最早ハズレを引かなければそれでいいなどという思考が、スカーレット様に読まれているのだろうか。


「スカーレット、慎みなさい」

「ですがっ!」

「これは政略結婚。それも私達に止められるものでもありませんわ」

「まさか……王命だとでもいうのですか?」

「いいえ、ルージュちゃんの前回の婚約者が王命よ。それに今回の命は失敗した王家が謝罪をするようなお方よ」

「まさか……!」


 やはり、ここでも私は歓迎されないのか。


「ノエル様、いいのです」

「でも……」

「たとえこれがソラお姉さまからの贈り物だったとしても、ご家族の反対を押しきってまで婚約したいなどとは思っておりませんもの」

「違っ……!」


 私は馬車を止めてくださいと御者に声をかける。


「私はもう疲れましたわ……。兄のようになるまいと必死に勉強したのを買われ、勝手にいなくなったシュライヒ家の一人息子の代わりに、次期公爵として育てられるようになりました。次期公爵の話も最終判断は私に任せると言ってましたが、あんなの実質選択肢がないようなものでした」


 私が断れば、次の公爵の地位は野心のある親族に渡る。

 そうなれば、民が不幸せになるだけだ。


「そして王命で婚約者を決められ、私の人生は何もかも決められてきました。ですがその婚約者も私の代わりに公爵になるなどと抜かした挙げ句王命に逆らい浮気をする始末。捨てられた私には、女としては何も残ってはおりませんもの」


 レオルク様はこれから幸せを取り戻す時間が必要。

 そんなお方に私をあてがうなど、受け入れられるわけがなかったのだ。


 止まった馬車に私は「下らない話に付き合わせてしまい申し訳ありませんでした」と言って扉を開けた。

 ここから歩いて帰路に着くのに、どれくらいかかるだろうか?


「待って……待ちなさい!」


 スカーレット様が私の腕を掴んだ。


「そういう事情なら、先に言いなさいよ!お姉さまも酷いわ!」

「ふふ、スカーレット。話は最後まで聞きなさいと言っておりますでしょう?私も勅命だったから話せなかったのよ」

「ほら、行きますわよ!走らせて頂戴!」

「えっ……」


 馬車は私の意思とは裏腹に走り出す。


「ソラ様のお願いなら、はじめからそう言いなさいよ……全く!」


 そうか、そもそも伝わっていなかったのか。

 やっと肩の荷がおりたように軽くなると、私はそれまで溜まりにたまっていたストレスのせいか、その場で倒れた。


「ルージュ!」

「ルージュちゃん!」




「ルージュ様、大丈夫ですか?」


 頭にタオルを乗せられている感覚がして目が覚めると、私はベッドに居た。

 そこには可愛らしい男の子が心配そうに私の手を握ってくれていたのだ。


「はじめ、まして。レオルク様。こんな姿で……すみません」

「いいから寝ててください。熱を出したら休まなきゃ、なんですよ?」


 ソラお兄様もそうだが、私はこの手の献身的な()()の男の子に弱いのかもしれない。

 庇護欲に駆られる存在に甘えることがこれ程いいものだとは知らなかった。


「はいっ……」


 恥ずかしくなった私は、しばらくかけられた毛布で顔を隠していた。

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