第99話 懇願
奥の部屋に通され、現れたのは巌のような人だった。
「だ、大聖女様……お、私はハインリヒ支部のギルドマスターのフォードと……申します」
「ぷっ……私……」
「申しますって……ふふっ……」
明らかに見た目に似つかない物言いに、彼のことをよく知るソーニャさんとミスティさんが笑いを押さえられないでいた。
「お、おいうるせぇぞお前ら!俺だって……いきなりでびっくりしてんだよ……」
「あ、あの……フォードさん、普通でいいですから。敬語もいらないです。今の私はただの学生のシエラとして来たのですから……」
「そ、そういって貰えると助かる……。で、確認なんだが、もう一度水晶に手を触れてもらって、ステータスボードを表示してもらえないか?」
「はい」
名前:奏天 ランク:ES
種族:人間族 性別:女
ジョブ:聖女 LV.100/100
体力:999/999 魔力:959/999
攻撃:999
防御:999
知力:999
魔防:999
器用:999
俊敏:999
スキル
アイテムボックス、光属性魔法[極]、無属性魔法[極]
加護
女神エリスの加護
「な、なんつぅバケモ……いや、なんでもない」
もうバケモンで結構だよ。
ステータスが全てグミの最大能力値上昇でカンストしてしまったのは流石に恥ずかしすぎて誰にも言えなかった。
「なるほど、聖女様特有の『シュミレーション』でエクストラランクになったわけか……」
EXTRA Sランクと言われるランクは、Sランク依頼を100回以上を達成し、なおかつSランク依頼の達成失敗が2割以下の人のみがなれるランクだ。
実はエリス様から渡されたゲーム名の「EVER SAINT」とのダブルミーニングだったり。
その意味の通り規格外である聖女のためだけにあるようなランクだろう……。
「過去にもエクストラランクになられた人は皆聖女様でしたからね。中でも第50代の樹雫様と51代の雨宮茜様は、エクストラランク二人で構成された、歴代最強の冒険者チーム『雨雫の煌めき』と呼ばれていたのですよ」
その辺は聖女史をパラパラめくっているときに少し覚えた。
確か雫さんが東の国に隠居する時までのチームで、刀術に光魔法を付与して戦う雫さんと、遠距離主体の光魔法を使う茜さんのコンビだったと思う。
「ソラ様、せっかくのバカンスを邪魔してすまねぇ!だがウチでもESランク冒険者はおろか、Sランク冒険者が捕まることも少ねぇんだ。だからできればでいいから、少しばかりSランクの依頼を受けてはくれねぇか?」
フォードさんの切実なお願いに、苦労人の血脈を感じた僕は断る選択肢をどこかへ放り捨ててしまった。
「い、いいですけど……」
流石に付いてきた身としては申し訳なく、ソーニャさんを見やる。
「私は、かまわない」
「ソーニャさん……。そうだ、みんなで一緒に行ってもいいですか?」
「「え、ええええっ!?」」
驚くエルーちゃんとミスティさん。
「ソーニャも流石に実力が足りんと思うが……」
「大丈夫です。私が守りますから」
「いや、私は降りる」
「えっ……」
いつも積極的なソーニャさんが降りるなんて……。
何かあったのかな?
「まだ実力不足だし、それに……」
「それに?」
「デート、邪魔したくない」
「デッ……!?」
「っ!?」
ソーニャさんはいつも突然ぶっ混んでくる。
ぼ、僕とエルーちゃんは健全な関係だよ……?
「もしかしてソラ様って……女たらし?」
そ……んなことはないはず……。
……………ないよね?
「あと、これを試したい」
以前あげたミスリルタガーを取り出すと大事そうに頬擦りする。
新しい武器を早く使ってみたいから邪魔するなということか。
その気持ちはわかるから、僕も頷く。
「ソーニャが行かないのは懸命だ。流石にSランクを受けるには実力が見合っていない。しかし、そこのメイドの嬢ちゃんは一緒に行くのか?」
「エルーちゃんは大丈夫ですよ。私の自慢の弟子ですから」
「ソラ様……」
「一番弟子。Aランク冒険者倒してる」
「マジかよ……。だがいくら大聖女様とはいえ、ルールには従ってもらうぞ」
「依頼に同行する場合、冒険者として登録する必要があるわ。メイドちゃんもまずは登録してね」
リルの加護のときのように、血を水晶に刻むことで冒険者登録となるらしい。
エルーちゃんはわたされたナイフで指を切り、血のついた手を水晶にのせる。
すると水晶は緑色の輝きを放つ。
「これで登録は完了よ」
エルーちゃんの手をヒールで治す。
「女の子だし、痕が残ると大変だから……」
「あ、ありがとうございます」
その光景を見たミスティさんが目を細める。
「やっぱりソラ様、女たらしよね……」
……どこが……?




