第988話 家出
「戦力外通告されちゃった……」
強制休暇を言い渡され、とぼとぼと後宮に帰ってくると、エルーちゃんが待っていた。
「おかえりなさいませ、ソラ様……どうかなさいましたか?」
「明日から休み……って、私のことはどうでもいいんだよ。エルーちゃん!私は今回の件、言いたいことがありますっ!」
「は、はい……!」
「どうして事前に話もしないで私の外堀を埋めるようなこと言ったのっ!」
「えっ……ええと以前、グイグイ来る涼花様みたいなお方が好きと仰っていたので、私もそれに倣ったのですが……。もしかして、お気に召しませんでしたか?」
なんか温度感が違うような……。
「ぶぅ」
「ウサギさんみたいです」
「どちらかというとハムスターのように愛らしいな」
「涼花さんもだからねっ!!」
僕が本当に怒ってても可愛いって言ってくるから、真面目に聞いているとは思えない。
まるで僕が婚約を断る類いの話をしようとしないように、皆で示しあわせているかのような……。
ちょうど帰ってきた涼花さんにも話を振る。
「む……?穏やかじゃないな」
「私に無断で妻を増やしたこと、まだ怒ってるんだから!」
「それはすまないと後程謝ったはずだが……」
断れない症候群の僕も悪いかもしれないけど、「妻が増える」なんて事後報告されて喜ぶ夫はいるのだろうか?
墓場とまでは言わないが、そうやって重く例えられるほどの価値観がある結婚を友達ができた感覚で言われるのは心外だ。
「二人はさ、ちゃんとその後のことまで考えたの?」
「失礼かとは存じますが、両御方ともソラ様のお好みかと。最終的にはソラ様のご随意にお任せいたしましたし。それにソラ様も満更ではなかったのでは?」
「違うよ……そうじゃないってば。私の妻が増えることのデメリットを二人は理解しているのって話!」
「デメリット、ですか?」
こんな情けないこと、僕は言いたくなかった。
素敵な妻たちにデメリットなんてない。
でも、相手が僕だ。
僕だからこそ、デメリットがある。
「ソラちゃんにデメリットなんてないだろう?」
「もおおぉぉっ!二人とも、分かってないんだからっ!!」
品もなく机を叩き立ち上がると、落ちて割れたカップをリカバーで直してそのまま窓をピシャリと開ける。
「わからず屋の二人なんて、だいきらいっ!!二人がちゃんと分かるまで、私、出ていくから!!!!」
「ソラ様!?」
「ソラちゃん!?」
吐き捨てるようにそう言うと、僕は後宮の窓から飛び出したのだった。




